本年度は磁性ガーネット(イットリウム鉄ガーネットやガドリニウム鉄ガーネット)薄膜を製膜し、その結晶構造の解析、磁気光学効果の評価を行った。 鉄ガーネット薄膜を製膜するために、単結晶の非磁性ガーネット(GGG)基板、及び、ガラス、シリコン基板を用いた。製膜には有機金属堆積法(MOD法)、および、マグネトロンスパッタリング法を用いた。有機金属堆積法によりビスマス置換ガドリニウム鉄ガーネット薄膜を作製したところ、結晶化させるために施す熱処理時のガスの種類によって磁気異方性や磁性ガーネットの結晶成長過程が異なることを見いだした。本研究成果は査読付き英文論文1報に採録された。 また従来の有機金属堆積法では製膜したい材料の酸化物を溶液に溶かしてスピンコートによって塗布し、熱処理によって結晶化させていた。本研究ではガドリニウム、ビスマス、鉄の酸化物を別々の溶液に溶かした原料を用意し、混合することで、異なるビスマス組成をもつビスマス置換ガドリニウム鉄ガーネット薄膜の作製を試みた。本手法を従来のMOD法と区別してEnhanced MOD法(E-MOD法)と呼ぶ。EMOD法によってビスマス置換ガドリニウム鉄ガーネット薄膜をガラス基板上に製膜した。ビスマス組成を増やしていくにしたがって、磁気光学効果が大きくなることが確認された。また、ビスマスを添加しないガドリニウム鉄ガーネット層をバッファ層として製膜することで、単結晶のビスマス置換ガドリニウム鉄ガーネット薄膜に匹敵する磁気光学効果を示すビスマス置換ガドリニウム鉄ガーネット薄膜の多結晶をガラス基板上に製膜することに成功した。本研究成果は強磁性体の磁気異方性の制御や、外部磁界によらない磁化反転の実現につながると考えている。
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