本研究では融点とキュリー温度の近い合金を作製し、強磁場を印加することにより安定した過冷却状態を実現することで強磁性液体の可能性を追究した。低融点金属と強磁性金属との組み合わせにより低融点強磁性合金を作製し、その融液を強磁場下で冷却する磁場効果によって、過冷却状態を低温まで維持する。過冷却液体で観測例がある巨大クラスターに磁気秩序が存在するならば、強磁性あるいは超常磁性などの磁性の発現が期待できる。 本年度は、強磁性微粒子の磁気配向の機構をシミュレーションし、Mn-Bi系のBiリッチ合金を対象にして研究を進めた。MnBiはTc=630Kの強磁性材料ある。まず、縦型13T超電導マグネットと電気炉および磁気天秤測定装置を組み合わせた実験装置を改良した。マグネットの室温ボア直上に800Kまで加熱できる電気炉を設置し、石英管にアルゴン封入したまま合金を融解し、石英管ごとマグネットの中心付近に移動し、磁場中で冷却(徐冷および最大24K/sで急冷)して磁気的挙動と外観等を観察した。 Mn-Bi合金はアーク溶解を用いて作製し、未アニールで使用した。Mn50Bi50合金およびMn7Bi93の室温の磁化は4Tでそれぞれ17.0emu/g、5.5emu/gの強磁性を示し、加熱冷却後はともに2.5emu/g減少した。冷却後の金属はバルクが得られてがその形状に特異性は見られなかった。Mn10Bi90合金は加熱前6.1emu/gの磁化を示し、加熱後は半減した。冷却後の固体は表面に凹凸が見られ、封入した石英管の内壁にも合金が付着した。強磁場下で磁性液体が示すスパイク現象は表面エネルギーと重力エネルギーと磁気エネルギーの3つによってその形状が定まる。また、石英管の丸底では液体が内壁にへばりつくように移動する挙動が見られることより、Mn-Bi系で強磁性液体の磁性発現について徴候が観測された可能性がある。
|