研究課題/領域番号 |
24656013
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
原 和彦 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (80202266)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 窒化ホウ素 / 化学気相法 |
研究概要 |
六方晶窒化ホウ素(h-BN)の結晶学的特性を活用して、サファイア基板上にマクロテラスアレイとマクロウォールアレイをする手法により、産業応用に対応できる面積をもたせながら、原子レベルで平坦な表面と高い結晶品質を実現することが目標である。平成24年度は、サファイア基板への単結晶h-BN層の成長について以下の結果・知見を得た。 工業的にpyrolytic BN (PBN)の作製に利用されているBCl3とNH3を原料とする化学気相法を採用し、PBNの作製温度(1800 ℃以上)に近い、高い成長温度領域を含む条件によりh-BN薄膜の作製を開始した。試料作製装置は水平配置のBN製反応管高温管状炉から構成され、N2ベースの常圧下で成長を行った。ここでBCl3については、基板から約30 mmの上流に位置するノズルから供給した。基板としてはc面サファイアを用い、成長温度においてN2中30分、NH3中10分待機した後、成長を開始した。 まず、サファイアc面基板上にc軸方向に配向したBN薄膜の結晶成長を達成した。成長温度が1200から1700 ℃Cの領域では、温度の上昇に従い結晶化が促進されることを示した。また、NH3供給量についても、結晶化が促進される適切な供給量があることがわかった。次いで、サファイア基板より剥離したh-BN薄片を基板として、1800 ℃の高温で結晶成長を行うことにより、結晶性、表面平坦性、発光特性が改善されることを示した。1800 ℃では、サファイアの熱分解が著しいため基板表面に大きなピットが生じてしまうが、この新しい手法によ、基板に影響されない良好な結晶成長を進行させることを達成できた。 以上の結果は、良質なh-BNテラスおよびウォールの形成には、高温でかつ基板の影響が抑えられた成長条件が求められることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度の達成目標は、サファイア基板への単結晶h-BN層の成長の次段階である結晶核形成とテラス成長方位の決定することであったが、単結晶成長が実現する条件の探索に予想以上の時間がかかってしまった。具体的な以下に述べる通りである。 研究の初期段階において、h-BNの結晶化を促進するためには、基板を用いる気相成長法としては格段に高い1800 ℃またはこれに近い結晶成長温度が好ましいことがわかった。計画段階では1600 ℃までの成長温度を想定していたが、この温度の上昇によりBCl3が基板に到達するまでの気相中での熱分解が顕著になった。気相中の原料反応は、原料供給の効率低下と薄膜の多結晶化を生じてしまうことから、これを抑制する必要があった。この課題は、反応炉内における原料ガス供給位置、基板位置、ガス流速の調整により解決され、現在では第2段階に進める状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
以下の研究項目を順次行い、目的とする形状のh-BNテラスおよびウォールの形成を目指す。結晶の評価については、特に結晶完全性および表面平坦性に着目し、X線回折測定、カソードルミネッセンス測定、走査電子顕微鏡、原子間力顕微鏡を使用する。 (1) 結晶核形成とテラス成長方位の決定:結晶方位の揃ったh-BN薄膜を、電子線リソグラフィーとプラズマエッチングを利用した微細加工により、直径が1 μm程度まで微小化する。この微小なh-BNを結晶成長の基点として、化学気相法(CVD)による再成長により、水平方向にh-BNを成長させる。 (2) マクロテラスアレイの作製:結晶核用に成長したh-BN薄膜を、(1)で決定したテラスの成長方向と垂直な方向のストライプに加工する。次いで、CVDの再成長により水平方向にテラスを成長させる。 (3) マクロウォールアレイの作製:基板として、(1)で決定したテラスの成長方向と垂直な面をもつサファイアウエハを使用する。ダイシングソーにより、c面が基板面と垂直に形成されるように溝加工を施す。この端面を原子レベルまで平坦化するために大気中でアニールを行う。その後、CVDにより基板全面にh-BN薄膜を堆積する。直流バイアスを加えたプラズマエッチングにより、側面以外の部分のh-BN薄膜を除去した後、側面のh-BN薄膜を結晶核として、CVDの再成長により垂直方向にウォールを成長させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度への繰越額が生じた理由は、研究の遅れにより主に試料のパターンニングプロセスを行わなかったことによる。現在では、原因となった課題は克服されており、この遅延分の研究項目を含め、当初計画通り助成金の執行を進められる見込みである。
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