研究課題/領域番号 |
24656016
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
鈴木 良尚 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 准教授 (60325248)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | コロイド結晶 / タンパク質 / 脱塩 |
研究概要 |
本研究はタンパク質の結晶化を従来の沈殿剤を用いた方法ではなく、コロイド結晶化で行おうというものである。コロイド結晶は基本的に斥力による規則構造形成であるので、容易に分子間距離をコントロールできる。そのため、従来単なる塩析では結晶化できなかった柔らかいタンパク質を結晶化するのに役立つ可能性が高い。しかし、実際にタンパク質結晶のコロイド結晶化を報告した例はない。研究計画書においては、初年度は、脱塩・pH 制御・濃縮により、ニワトリ卵白リゾチームのコロイド結晶化法を確立することを目的としていた。しかしながら、「コロイド結晶化」かどうかを判断する基準が難しく、その意味で目的は完全には達成されなかった。しかし、いくつかの点で研究に進展があった。その内容について以下に示す。 1.沈殿剤なしで、超純水を用いて脱塩濃縮することで得られた結晶をフラッシュクーリングした状態で、放射光を使って1°振りで1秒露光、0-180°の回転写真を撮影した。PDB ID 2ZQ3のデータを使って分子置換法により解析した結果、斜方晶系の結晶であることが分かった。ただし、格子定数は2ZQ3のものと非常に良く一致したため、コロイド結晶といえるかどうか、判断が難しい。2ZQ3のNa+の部分に対応するところに、水分子の酸素原子によく似た電子密度が確認できたことから、イオンが水分子に置換されたことが示唆される。 2.沈殿剤なしの結晶の溶解度は大きく、溶解エンタルピーは、すべての結晶の中で最低の値を示した。これは引力相互作用が小さいことを示している。 3. 0.01 M HCl水溶液により脱塩濃縮した溶液は、そのままでは結晶化しなかったが、引き続き徐々に乾燥濃縮させることにより、振動写真の撮影できれいな回折像を得ることができた。しかし、格子定数は、NaClの塩析で得られる正方晶系の結晶と大差なかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロイド結晶化につながる、斥力的相互作用を強めた「沈澱剤フリー」の結晶化については、(1)良質な単結晶の育成を成功させ、かつ、構造解析も実施できた。(2)十分に塩濃度が低下したことの証明となる、溶解度の上昇も確認できている。(3)酸性の溶液からも、脱塩濃縮のプロセスで、回折像が現れる状態を実現することができた。というポジティブな結果が得られている。 しかし、それらの点では評価できるが、得られた結晶の格子定数が、従来の沈殿剤を用いた結晶と変化しなかった。このことから、これらが本来の目的である「コロイド結晶化」を示したかどうかという明確な証拠をまだつかむことができていないという点が(3)やや遅れているという自己点検評価を下した主な理由である。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度は、超純水および0.01 M HCl水溶液による遠心透析を行うことで、脱塩が実現できていると仮定して、実験を行ってきた。しかし、格子定数が沈殿剤により育成した結晶と同じであったという結果が得られたことで、そのストーリーの検証も含め、下記のような方策を立てる必要がある。 1.イオン交換を徹底的に行い、塩の残余量を正確に把握する。 2.遠心濃縮により、濃厚な溶液と希薄な溶液の相分離の状態になる(液液相分離)が、その時の濃厚な溶液部分に正確にX線を当てた振動写真を撮影する。 3.沈殿剤フリーの結晶化の可能性をより一般化するため、グルコースイソメラーゼでも試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度からの繰越金額991,876円は、すでに納品済みの、結晶化スクリーニングキット、電気泳動装置、高速液体クロマトグラフ関連の消耗品、その他消耗品の為に使用する。また、3月に実施された仙台での研究打合せの旅費として使用する。 H24年度の結果を踏まえた改善策として、物品費の増額が必要となる。 具体的にはタンパク質の物性を正確に評価するため、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、現有)を用いた特性評価および精製を行う。複数のカラムの使用、付属品の購入等に対して50万円程度の増額が必要となる。 また、コロイド結晶化へのプロセスの途中ではあるが、十分オリジナリティの高い実験結果が得られているため、原著論文の執筆に伴う英文校閲等、その他の部分の10万円程度の増額を予定している。 旅費の申請については、H24年度と同程度で行える見込みである。
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