研究課題/領域番号 |
24656019
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
澤木 宣彦 愛知工業大学, 工学部, 教授 (70023330)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 太陽電池 / 窒化物半導体 / 電界効果 / トランスポート / ヘテロ構造 / インパクトイオン化 / pn接合 / ピエゾ電界 |
研究概要 |
窒化物半導体混晶の光特性は太陽光の全スペクトルをカバーできるため高効率太陽電池への貢献が期待されるが、現状では結晶欠陥密度が高く理論予測にはほど遠い結果しか得られていない。本研究では、窒化物半導体InGaN混晶pn接合構造に傾斜組成構造を採用し、強い内部電界を用いる単一接合高効率太陽電池実現の可能性を明らかにすることを目的としている。本年度は、主として計算機シミュレーションによる動作特性の評価を行った。 まず、連続的な組成変調が可能なInGaN混晶をp形トップ層として、組成変調により、広バンドギャップ窓層と、傾斜組成p形層を設定し、組成あるいは内部電界の関数としてpn接合における過剰キャリア分布との光電流を評価した。その結果、窓層の付加により表面再結合による光励起キャリアの損失が大幅に改善され、p形トップ層のエミッタ効率が改善されること、わずか100V/cmの内部電界で光電流が3倍以上に増強されることが明らかになった。内部電界によるコレクタ効率の改善を図るため、1000V/cmまでの内部電界強度について光電流を評価したところ、p形トップ層の厚さがキャリア拡散長の3分の1程度で最も大きなコレクタ効率が得られることが明らかになった。 次に、本手法による効果を検証するため、太陽光シミュレータ、光電流計測システムを構築した。また、InGaNならびにAlGaN混晶による単一pn接合構造をHVPE法により試作した。p形トップ層の傾斜組成作製条件を確立するため、まず成長温度を徐々に変化させる手法の妥当性を検証した。しかし、試作デバイスでは試料品質の劣化が見られ、漏れ電流が大きく光電流の増強を確認するには至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、最表面層窓効果によるエミッタ効率改善とトップ層における傾斜組成による内部電界効果によるコレクタ効率改善の可能性を計算機シミュレーションにより明らかにし、デバイス設計指針を得ることを目的とした。窓層挿入により表面再結合によるキャリアの消滅が劇的に改善され、トップ層内のキャリア密度が一桁以上増加することが明らかになった。内部電界によるコレクタ効率の改善に関しては、p形トップ層のトランスポートの解析を行ったところ、トップ層の厚さがキャリア拡散長の3分の1程度の時最も大きなコレクタ効率が得られ、光電流は50倍程度増加することが明らかになった。この傾向は、長波長側で僅かに深い方向にシフトするものの、太陽光スペクトルの範囲内では大きな相違は見られなかった。このことは、当初予想していなかったが、実デバイスの設計には重要なポイントと思われる。 実デバイスでの評価実験のため、測定装置の手配と測定プログラムの開発を行いシステムの設置をほぼ完了した。実デバイスの試作では、スライドボート混合原料法を援用したHVPE法によるpn接合の作製に着手し、温度制御により組成変調が出来る感触を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
1.計算機シミュレーションの高精度化について 窒化物半導体積層構造には6方晶に特有なピエゾ電界が発生することが知られている。前年度のシミュレーションでは簡単のためこれを無視していた。他研究機関の例ではヘテロ界面に生ずる同電界を制御する手法が検討されているが、本手法で採用する徐々に組成を変化させるデバイスにおける検討結果は見られない。今年度はスラブモデルを使ってp形トップ層のピエゾ電界を評価する。簡単なモデルではN極性では光電流を増強する方向に働くがGa極性では抑制する方向に働くと予想された。可能なパラメータを使って、最も一般的なGa極性デバイスについてその低減効果を明らかにする。また、前記シミュレーションには太陽光によって励起された光キャリアによる内部電界の緩和効果を無視している。本手法ではインパクトイオン化によるキャリア増幅も狙っているため、傾斜組成層で誘起された電界が励起キャリアによってどの程度緩和されるかを評価する必要がある。太陽光の強さによる電界緩和効果を取り込んだ組成変調プログラムを検討する。 2.デバイス試作について 前年度の試作実験結果を踏まえ、まず、傾斜組成層の高品質化を確立する。AlInN、GaInNともに、スライドボート混合原料法を援用して組成制御が出来ることから、成長中に温度を徐々に下げる手法で膜厚と組成の関係を評価し、作製条件の最適化を図る。ついで、この構造における光電流を測定しp-AlInGaNトップ層の膜厚依存性ならびに組成変調効果を評価する
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度繰り越し10万円と本年度配分予定の90万円を合わせ、100万円を使用する。 前記シミュレーションは既設のワークステーションを用いるため特に費用は発生しない。試料作製には、半導体基板(Si,サファイア)ならびに金属材料原料が必要である。試料の光学特性評価は、本研究費で措置した光源の他、既設の顕微PL、顕微FTIR装置を利用する。その運用のため消耗品と窒素ガスを購入する。 成果は、毎年1~2月に開催され、本研究分野の研究者が集結するSPIE-OPTO国際会議(サンフランシスコ)で発表する予定で、このための渡航費を予定している。
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