研究課題/領域番号 |
24656024
|
研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
三谷 誠司 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (20250813)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | スピントロニクス / 強磁性トンネル接合 / コヒーレントトンネル / パーマロイ / 磁気メモリ素子 |
研究概要 |
近年、結晶性トンネルバリアにおけるコヒーレントトンネル効果によって、大きなトンネル磁気抵抗効果(TMR)が得られ、スピン注入書込み型磁気ランダムアクセスメモリ(STT-MRAM)等への応用が進んでいる。しかし、現在のMgOバリアでは、強磁性トンネル接合に使用可能な強磁性体が限定されるため、更なる応用展開のための垂直磁気異方性材料や低磁気ダンピング材料の利用に限界があった。本研究では、研究代表者らが最近見いだした結晶化スピネルトンネルバリアの成長プロセスの利用・改良によって、パーマロイ等の優れた磁気特性を有するfcc(111)系の強磁性薄膜材料に適用可能なコヒーレントトンネルバリアを開発を試みた。これにより、コヒーレントトンネルの常識を打ち破るとともに、パーマロイの優れたソフト磁気特性や低磁気ダンピング、コバルトの界面磁気異方性などを有する新カテゴリーの強磁性トンネル接合の基盤技術を創出する。 24年度の主要な成果は、fcc(111)配向構造をもつパーマロイ上に初めて結晶性のトンネルバリアを生成したことである。従来の研究開発では、パーマロイ上のトンネルバリアはアモルファス構造のものに限られており、大きな進展であると言える。具体的には、サファイヤA面の上に高配向かつ平坦なパーマロイ(Ni80Fe20)を成長させ、その上にAlをスパッタ成膜した。適切なプラズマ酸化プロセスを選ぶことにより、Al酸化物の結晶化を反射高速電子線回折(RHEED)で確認した。Al酸化物の結晶構造と成長方位については、現時点では同定しきれていないが、Fe(100)上の実験結果からの類推により、スピネル構造のAl酸化物が成長しているものと思われる。観測されたRHEED像から、エピタキシャル関係が存在すること、表面が平坦であることも分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の成否の最大のポイントは、当初の狙いと期待どおりに結晶性のトンネルバリア層が得られるかどうかということであったが、難しい材料選択を余儀なくされるといった困難はなく、プラズマ酸化条件の適正化のみによってこの点をクリアできた。トンネルバリア技術におけるひとつのブレークスルーであり、これが達成出来たことから、順調であると言える。細かな研究計画については、若干遅れもあるが、それ以上にCo(111)などへの大きな展開に着手できていることから、次年度の研究も順調に進むことが見込まれる。
|
今後の研究の推進方策 |
(1) 上部電極層を付加して強磁性トンネル接合の積層を完成させ、膜面内電流トンネル効果評価装置(CIPT)による測定や実際に微小素子を作製することによってTMRと関連するスピン依存伝導特性を評価する。バリア成長条件にフィードバックさせることによって最適成長条件を決定する。エピタキシャル成長しただけではコヒーレントトンネルは発現しないことが多く、最適熱処理が不可欠である。上記のTMRの測定に際しては、系統的なポストアニールを施す。さらに、Co(111) 上のコヒーレントトンネルバリアの成長とTMRの測定を試みる。Co単層の実験に加えて、格子定数の調整や磁気異方性の付与の観点から、Co/Pt(111)多層膜についても試料作製を行う。Ptとの多層膜化による磁気異方性に加え、コヒーレントトンネルバリアとCo(111)の間に誘導される界面磁気異方性についても評価を行う。 (2)Waveguideを用いた強磁性共鳴により、トンネル接合膜として積層したNiFeの磁気ダンピング係数の評価を試みる。STT-MRAM等への応用に際しては、バルクや厚膜の磁気ダンピング係数ではなく、素子そのものの中での薄膜状態の磁気ダンピング係数を調べることが重要である。 (3) fcc(111)におけるコヒーレントトンネルは基礎的にも全く調べら得ていないため、TMRの大きさに加えて、関連する基礎物性を総合的に評価する。このとき、必要に応じて理論グループとの共同研究を行い、電子構造([111]方向での伝導電子のenergy dispersion curve)と実験結果の比較検討を行う。また、fcc(111)を用いることの大きなメリットの一つは、多結晶試料においても平坦な(111) 配向膜が得られることであり、Si基板上での試料作製と構造および特性評価も行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究費の大半は、試料作製のための材料費(単結晶基板、シリコン基板、スパッタターゲット)およびスパッタ装置の消耗品(銅ガスケット、バルブ等の真空部品)に用いる。成果発表のための旅費にも支出する。
|