結晶性トンネルバリアを有する強磁性トンネル接合素子では、コヒーレントトンネル効果によって、大きなトンネル磁気抵抗効果(TMR)が得られる。そして、スピン注入書込み型磁気ランダムアクセスメモリ(STT-MRAM)等への応用が着実に進んでいる。しかし、現在のMgOバリアでは、強磁性トンネル接合に使用可能な強磁性体が限定されるため、更なる応用展開に有用な垂直磁気異方性材料や低磁気ダンピング材料の利用に限界があった。本研究では、研究代表者らが最近見いだした結晶化スピネルトンネルバリアの成長プロセスの利用・改良によって、パーマロイ等の優れた磁気特性を有するfcc(111)系の強磁性薄膜材料に適用可能なコヒーレントトンネルバリアを開発を試みた。 25年度の主要な成果は、Si基板上に成長させた(111)優先配向の多結晶パーマロイ(Ni80Fe20)上に、AlOなどの結晶性トンネルバリア層を形成できたことである。これは、前年度に行ったサファイヤA面単結晶基板上の結果を単にSi基板に展開したというだけでなく、応用に向けた特筆すべき成果である。科学的観点からは、下地となる電極層の結晶性はバリア層の結晶化に大きな影響を与えないことを確認しており、結晶成長のメカニズムの一端も解明できたと言える。 トンネル接合素子を作製し、実際に大きなTMR効果を得るには至っていないが、必要な特性として磁化の平行および反平行状態も得られており、今後界面を中心とした構造最適化のための成膜条件・熱処理条件の検討により、新たなTMR素子としての可能性が拓かれると期待される。(111)成長のエピタキシャルTMR素子は基礎的にも斬新であり、コヒーレントトンネル効果とTMRの相関について一層の理解を得ることに寄与すると思われる。
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