研究課題/領域番号 |
24656026
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
米澤 徹 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90284538)
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研究分担者 |
阿部 薫明 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (40374566)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | イオン液体 / 電子顕微鏡 / 生体試料 / コリン / 可視化 / 導電性 / 細胞 |
研究概要 |
本研究の最終目標は、イオン液体を用いて、湿潤状態でのさまざまな生体関連試料の電子顕微鏡観察の実現とその応用展開である。イオン液体とは、常温で液体であるイオン性の物質で、水・油と異なる第3の溶媒として注目される。いわゆる常温溶融塩であり、真空中で蒸発しないが電気を通すため、導電性のない試料を薄くコートするだけで、チャージアップせず走査型電子顕微鏡観察を可能とする。特に挑戦的な課題は、細胞内の水と置換可能なイオン液体を用い、固定化・金属コーティングが不要な生体試料の簡便な観察法の開拓である。つまり、イオン液体を用いた生体試料に適した電顕用可視化剤の開発である。平成24年度は、生体関連分子であるコリンの構造をまねた分子構造をもつイオン液体と、市販のイミダゾリウム系イオン液体を用いて生体関連試料の走査型電子顕微鏡観察を行った。 イオン性の小さな分子構造を持つ生体分子であるコリンをまねてイオン液体を設計・合成した。コリンは水溶性であり、得られるイオン液体も水との親和性が高かった。コリンは細胞膜を行き来することができる。本研究ではコリン型イオン液体のうち、メタンスルホン酸をアニオンにもつイオン液体が水との親和性が高く、生体試料の可視化用イオン液体として適していると考えられた。実際、遊離細胞やナノ材料、生体試料などにこのイオン液体を用いたところ、変形することがほとんどなく、試料そのままの表面構造と思われる像が得られた。 その結果、遊離細胞の観察、実際、我々の設計・合成したコリン分子に似た構造を持つイオン液体は、平成25年5月に上市されることになり、同月に大阪で行われる顕微鏡学会にて会社から紹介されることになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体関連試料の観察事例では、遊離細胞の観察を可能とすることができた。従来のイミダゾリウム塩系イオン液体では容易に細胞が崩壊してしまったが、コリン型イオン液体ではその構造が保持される場合が多かった。しかしながら、細胞はいずれのイオン液体を用いた場合においても、Liveな状態で観察することができないことが分かった。これは残念であった。結果的に、生体試料に優位なイオン液体としては、コリンに似た分子構造を持ち、アニオンがメタンスルホン酸であるものであることを明らかとした。よって、計画通り進展したと言える。 また、現在のところ、質量分析測定では、真空中でイオン液体からの分解ガスは観察されていない。電子顕微鏡観察の場合、試料が電子ビームにさらされているので、高温になることが考えられる。よって、さらに高温処理などをしてみて、質量分析測定を行いたい。これは、計画は計画通り進展したが、さらに計測が必要であることが明らかになった点で重要である。 また、こうしたこれまでの成果が結実し、電子顕微鏡メーカーから我々の設計したイオン液体が平成25年5月より市場に投入されることになった。また、同月に大阪で行われる顕微鏡学会にて紹介される予定である。これによって、我々の研究成果が広く一般の走査型電子顕微鏡ユーザーに用いられることになった点において計画以上の進展度がある。 論文執筆はやや遅れている。この点は反省し、25年度の論文による報告を充実したものとしたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、こうしたイオン液体を用いた細胞表面・生物個体などの生体試料の直接詳細観察をさらに進めると同時にイオン液体の高温での分解について調べてみたい。また、より簡便なイオン液体による細胞表面やナノ構造体の微細構造の観察手法の開拓を行いたい。 このイオン液体の手法によって細胞の表面での微細構造を観察するためには、細胞とイオン液体の親和性が高いことと、薄く細胞をコートできることが重要である。そこで、本研究では、理想的なイオン液体被覆試料を作製するために、フィルターを用いたシステムの構築を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費が想定より少なくなった。理由として現時点での質量分析計の購入が不要になったことが挙げられる。しかし、高温での測定のシステム構築に必要となれば、25年度に導入する。また、学会発表旅費ならびに質量分析費用、試薬費用に用いる。
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