個々の原子によって構築されたナノ構造体の磁気的性質を理解するために最も重要なものは、原子の磁気モーメント(スピン)間の磁気交換相互作用であり、これを直接測定できる革新的な手法として、磁気交換力顕微鏡が注目されている。本研究は、『強磁性共鳴を用いて、物質表面に作用する交換力を原子分解能で観察できる磁気交換力顕微鏡を開発する』ことを課題として提案する。また特に重要な研究目標として、『磁気交換力顕微鏡を超高感度化・超高分解能化する技術の開発を行う』。その結果、以下に述べるような成果が得られた。 1)強磁性共鳴を用いて磁性体探針を磁気変調できることを実証: 磁性体カンチレバーを磁場中に設置し、それに振幅変調されたマイクロ波を照射し、探針の磁化状態を強磁性共鳴により変調できることを実証する。具体的には、カンチレバーの周波数シフトに現れる変調成分をロックインアンプで検出することにより、磁気変調できることを実証した。なお、漏洩磁場の大きな試料として、サマリウムコバルト試料を用いた。 2)原子分解能で交換力を測定できる磁気交換力顕微鏡の実証: 反強磁性体のイオン結晶である酸化ニッケル(NiO)の(001)表面は、隣接原子のスピンが反平行に配列する。 このNiO(001)表面を試料表面として取り上げ、表面の個々の原子の結晶構造と交換力(スピン配列)を原子分解能で分離観察できることを実証した。なお、この観察には原子レベルで清浄で平坦なNiO(001)表面を用いる必要があるが、バルクの酸化ニッケルを超高真空中でへき開することにより準備した。
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