研究課題/領域番号 |
24656042
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
早崎 芳夫 宇都宮大学, オプティクス教育研究センター, 教授 (10271537)
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キーワード | フェムト秒レーザー / 空間光変調 / 材料加工 / 計測工学 / ベッセルビーム |
研究概要 |
本研究の目的は,空間対称性の高い集光を有するラジアル時空間レンズを実現し,その集光特性を明らかにすることにより,この手法の有効性を示すことである.平成24年度には,光軸の動径方向(ラジアル方向)に分光を実現する素子として,市販されていない円形回折格子を電子ビーム露光を用いて作製した.これを用いて,ラジアル時空間レンズを構築し,時空間レンズの機能があることを確認した. 平成25年度には,レンズパラメータの違いによる集光特性を明らかにすることを目的とした.そのために,スカラー回折理論に基づく光伝搬計算による,時空間レンズの計算機シミュレーションを実装した.解析的に求めることのできるアキシコンレンズ通過後の各波長の波面に対し,円形回折格子,コリメートレンズ,対物レンズ,集光面通過後の波面を,回折計算により求めた.シミュレーションにおいて,パルスの波長幅19nm,アキシコンレンズの底角25度と屈折率1.453,円形回折格子の空間周波数273.6lp/mm,コリメートレンズの焦点距離200mm,対物レンズの焦点距離100mmとした.比較のために,1次元の回折格子で実現される時空レンズとの性能比較も行った. その結果,ラジアル時空間レンズは,時空間レンズと同様に,パルス伝達時間が光軸から傾くパルスフロントティルトを形成し,対物レンズの焦点において最短パルス52fsを得た.その光伝搬は回転対称であり,回転対称の波面の干渉により光軸付近での強い強度ピークを発生した.ラジアル時空間レンズの光軸上でのパルス幅および強度ピークの変化も,時空間レンズとほぼ同一の結果を得た.以上の結果より,ラジアル時空間レンズで集光されたパルスは,軸方向特性を有しながら,中心に強い強度ピークをもつ面内方向特性を有するベッセルビームプロファイルとなることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初から計画していた,計算機シミュレーションの作成を行い,ラジアル時空間レンズの集光特性の評価を開始できた.ラジアル時空間レンズのパラメータを変化させながら最適解を求めることを目指して,基本的な時空間集光特性を知ることができた.あわせて,既存の時空間レンズの計算機シミュレーションも同時に行い,比較した結果,光軸方向上の集光点前後でのパルス幅に関して,ほぼ同じ集光特性が得られた.ラジカル時空間レンズは,光軸上で大きな光強度を有し,ベッセルビームと同様な集光特性も併せ持っていた.ラジカル時空間レンズは,通常の時空間レンズとは異なり,対称な集光分布を有することに加えて,このベッセルビームの様な集光特性を持っていた.このように,最適なラジアル時空間レンズの設計を行うためのツールの開発は終了した ラジカル時空間レンズの光学的な評価実験では,作製した円形回折格子を用いて,その特性を評価した.大きな円形回折格子を,パラメータを変えながら色々作製するためには,レーザービーム露光装置を必要とするため,問題であった装置の外部振動に対する安定化を試みた.最終的には,レーザービーム露光装置をより安定な実験環境に移設するとの結論に至った.
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今後の研究の推進方策 |
レーザー描画システムを再構築する.その装置を用いて,ガラス基板に塗布したレジストをレーザー露光し,ドライエッチングを行うことによって,高い回折効率と高い耐エネルギーを有するバイナリの円形回折格子を作製する.なお,再構築したレーザー描画システムが十分な性能が得られない場合には,描画時間の問題を有するものの,電子ビーム露光を用いて円形回折格子を作製する.バイナリの素子の場合,一次回折光の理論的な回折効率は40%であるが,ここでは,素子作製誤差等を考慮して,回折効率20%を目指す. 再生増幅型チタンサファイアレーザーを光源として,円形回折格子を用いて時空間レンズを構築し,照射パルスエネルギーやパルス幅を変化させた時の加工径や深さを計測し,透明材料の加工特性を評価する.円形回折格子で分散された光に対してコリメートレンズで形成する分光面に空間光変調素子を配置し,光学系やサンプル内で生成される波長分散を補正する. 計算機シミュレーションによって,ラジアル時空間レンズの時空間集光特性を,回折格子の格子間隔によって決まる回折角度,光源のスペクトル幅,対物レンズの開口数に対して評価し,最適なレンズパラメータを決定する. 再生増幅型チタンサファイアレーザー(パルス幅35fs)から出射されるパルスを中空ファイバコンプレッサーによるサブ10fsパルスの発生実験を行い.発生されたパルスを評価する.
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