研究課題/領域番号 |
24656052
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
山本 裕紹 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 講師 (00284315)
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研究分担者 |
陶山 史朗 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 教授 (70457331)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ディジタルサイネージ / 直交ミラー / 空中表示 / 3Dディスプレイ / サーマルディスプレイ / LED |
研究概要 |
本研究では,LEDアレイの空中結像用に申請者が製作,空中フローティング表示を達成した実績のある直交ミラーアレイが,中空構造を持つ点に着目して,疎密波である音波に関しても音源を空中に結像できるような新しい結像素子を設計製作する.何もない空中に浮かぶ映像の場所から音が聞こえてきて,その映像を触ると温かさを感じる<光と熱と音>の空中フローティング表示を実現することが本研究の主目的である.3年間の研究期間での達成を予定しており,初年度となる平成24年度には,<光と熱>の空中結像を行った. 空中像を形成するために,2面コーナーリフレクターアレイに基づく反射型結像素子を製作した.これは櫛形のミラー部品を組み合わせによる直交ミラーアレイ(CMA: crossed mirror array)である.熱の収束を可能にするため,開口部を中空構造とする特徴がある. 今回,櫛形のミラー部品を,厚さ1mmのステンレスミラーを幅8mmの短冊状で,長軸側の片側に4mmピッチで幅1mm長さ4mmの切れ込みを設けるように,放電加工機を用いて製作した.赤熱物体の遠赤外線を収束させるため,1辺14cmの正方形型のCMAユニットを3x3個タイリングして有効面積で50cm×50cmのCMAを実現した. LEDアレイを用いた光の3次元フローティング表示とともに,ハロゲンランプやヒーターを熱源として用いて熱源の結像位置で温度分布が極大化することを実証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
何も無い空中に熱で3D表示を行う試みは世界初の試みである.この挑戦を行うのが本萌芽研究であり,初年度の光と熱のフローティング表示の目標を達成できた.ヒーターなどのハードウェアを直接触ることのないサーマルディスプレイはこれまでに例がなく,目をつぶっていても温かさで3D表示を感じられる新しい表示方法として注目を得た.ディスプレイに関する国際会議においてOutstanding Poster Paper Awardを受賞した. [受賞名:IDW/AD '12 (the 19th International Display Workshops in conjunction with Asia Display 2012) Outstanding Poster Paper Award,R. Kujime, S. Suyama, and H. Yamamoto, “Thermal and Visual 3D Display by Use of Crossed-Mirror Array,” Dec. 6, 2012.] 光学分野を代表する学会であるOSA(The Optical Society)が主催する3D表示に関するトピカルミーティング Digital Holography and 3-D Imaging(DH) 2013において,"Aerial 3D LED Display by use of Crossed-mirror Array"と題して招待講演の機会をいただくなど,この成果は世界的に注目を得ている. 光工学分野で世界最大の学会の一つであるSPIEにおいて会員向けに配信される注目研究に関するニュースレター(SPIE Newsroom)において研究が世界中に紹介されるなど,第1年目において研究成果が世界的に注目を得ている状況にある.
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今後の研究の推進方策 |
第2年度には光と音のフローティング表示の実現を目標として研究を進める予定である.音の3次元定位に関しては聴覚モデルに基づく方法が実現されているが,これは視覚3Dディスプレイにおけるステレオ式3D表示と同じく,人の認識機能を利用したものであり,本研究が目的とする3次元実像の形成とは原理と効果が異なる.3次元実像形成においては滑らかな運動視差に代表されるように観察者が動きながら観察するような場合においても実像の位置が3次元的に静止,複数人で観察する場合でも誰からも全く同じ場所に知覚される利点がある.本研究で提案する光と熱のフローティング表示は,像が表示される場所に物理的ハードウェアを設置すること無く,光(視覚刺激)と熱(触覚刺激)を呈示できる特徴がある.本研究課題で実現されたフローティング表示技術は,個別の感覚器ごとに独立して知覚特性を解明する新しいパーセプション研究のツールとして活用できるというコメントを学会発表等を通じていただいており,長期的には本研究課題で開発された技術の研究展開の新しい方向性として考えている. 次年度の研究推進に関しては,直交ミラーアレイに製作プロセスに関してはこれまでの研究で実績ある方法を採用するとして,音の結像実験に関する音源に関しては,パラメトリックスピーカー利用時には位相整合問題が生じる恐れがわかったため,小型スピーカーや音叉などの音源の結像実験から原理検証を進め,高度な3次元結像実験を進める予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
第2年度には光と音のフローティング表示を実現するため,各種の直交ミラーアレイの製作,光源となるLEDアレイ,音源とセンサに研究費を使用予定である.音源に関しては超音波を搬送波とするパラメトリックスピーカーを用いる実験の前に,小型スピーカーや音叉による可聴周波数音源による原理検証実験を行った後,超音波を搬送波とする音の形成実験に取り組む. 音の結像に挑戦するため,直交ミラーアレイに関しては大幅に変更する見込みである.これまでのミリオーダーの開口は光の波長に対して十分に大きく,開口制限による回折の影響を無視することができた.一方,音に対してはミリオーダーの開口は波長よりも細かいため,開口の大きさが細かすぎれば直交ミラーアレイ全体が振動してしまい,開口ごとの音の反射を達成できない可能性がある.一方で開口を大きくすると光の収束径が大きくなりすぎる.これらの問題を解決するために,直交ミラーアレイの設計値を変更しながら必要であれば光用と音用のハイブリッド構成を試み,光と音のフローティング表示を達成する. 研究費は直交ミラーアレイ製作を中心とする光学部品,LEDと音関連の電子部品を中心とする研究物品,研究成果発表に関わる費用,論文投稿費用に使用予定である.
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