研究課題/領域番号 |
24656060
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山中 一司 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00292227)
|
研究分担者 |
辻 俊宏 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70374965)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 弾性表面波 / 漏洩減衰 / SAWセンサ / 真空計 / 圧力計 |
研究概要 |
これまで半導体製造や金属加工に使用する真空装置において圧力数Paから数kPaまでで動作する真空計として、ピラニー真空計が最も普及している。しかし、数kPaを越え て大気圧100kPaに至る範囲では、ピラニー真空計は遷移領域から対流領域となり、応答が非線形で感度が低く使 用できない。 一方、圧電結晶基板に電極を形成し弾性表面波(surface acoustic wave; SAW)を送受信するSAW素 子では、周囲ガスへのSAWの漏洩による減衰があるが、平板の素子では減衰による振幅変化が小さく真空計として利用できない。 そこで本研究では、結晶球にSAWを周回させるボールSAW素子では伝搬距離が平板より100倍以上長い ため、周囲ガス圧の変化で漏洩減衰が変化する際のSAWの振幅変化が拡大されることを利用して、数kPaから1気 圧(~100kPa)以上までの圧力領域で使える初めての真空計を創出する基礎を確立する。 24年度は2年計画の研究の初年度として、基礎的な原理を検証するとともに、次年度に最終成果を達成する基盤を確立した。具体的には、水晶単結晶を球状に加工して作成した直径3.3mmのボールSAW素子を真空装置に設置して、真空排気による減圧空気の圧力をピラニー真空計および容量型真空計を用いて圧力を計測しつつ、その空気への弾性表面波の漏洩による減衰を計測した。その結果、等方性固体を仮定したSlobodonik,Jrによる漏洩減衰の近似式によって、計測結果を半定量的に再現できることを見出した。また、常圧より高圧側の3気圧まで使用可能な素子収納容器と配管の設計を行い、真空から高圧まで測定できる圧力計の評価を行う体制を整備できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請前の予備実験において、4Paにおける減衰定数を素子固有の減衰定数と仮定すると、漏洩減衰の近似理論により4Paと大気圧における減衰定数の変化の説明を試みた場合、一致の精度は低かった。これは近似理論が多くの仮定に基づくためと推定される。 24年度は、弾性表面波の周囲ガスへの漏洩に基づく大気圧から低真空まで使える真空計の基礎を確立するため、ボールSAW素子の漏洩減衰を数Paの真空から100kPaの大気圧までの広い圧力範囲で計測し、低真空から大気圧までの圧力と漏洩減衰の校正曲線を作成し、実用的な圧力計として使用できることを明らかにした。すなわち、まず水晶のボールSAW素子を薄膜作製用の真空装置内に設置し、小型ディジ タル直交検波器により送受信するシステムを構築し、ピラニー真空計のほかに容量型真空計を用い て、ピラニー真空計が使用できない圧力範囲の圧力を計測し、同時に、SAWの多重周回波形を測定することで、数Paの真空から100kPaの大気圧までの広い圧力範囲におけるSAW減衰定数の変化を測定して、容量型真空計に より計測した圧力値と比較し、漏洩減衰の理論計算結果を比較した。
|
今後の研究の推進方策 |
24年度は、SAWの多重周回波形を測定することで、数Paの真空から100kPaの大気圧までの広い圧力範囲におけるSAW減衰定数の変化を測定して、容量型真空計により計測した圧力値と比較し、漏洩減衰の理論計算結果を比較した。しかし、この近似理論が結晶の異方性によるSAWの音速変化を無視するなど、多くの仮定に基づくため、減衰定数の計算値を用いた真空計の絶対校正には限界が存在すると予想される。 そこで25年度は、真空引き開始後に、特定の周回数のSAWの振幅応答と真空計の出力の動的時間変化を比較して校正曲線として用いる実験式を作成し、ボールSAW素子の真空計としての基礎を確立する。このため、対流領域と遷移領域を経て、分子の熱伝導と比例するクヌーセン領域に到達するまでの圧力を真空 計により計測し、漏洩減衰値と圧力の関係を求めるために、4Paから100kPaの間でディジタル直交検波器を用いた振幅応答の測定を行う。 次に、圧力計を導入して、大気圧より高圧側の3気圧程度までの圧力において、圧力とボールSAW素子の出力の振幅を比較する。これにより脆いシリコンやセラミック製の容量型真空計の使用できない領域で、ボールSAW素子により初めて真空領域と加圧領域を統一的に測定できる革新的真空計の概念を実証する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、真空バルブなどの真空部品、高圧側の圧力計の部品、ボールSAW素子の駆動のための直交検波回路部品等の購入、研究員の雇用、謝金、旅費等に使用する計画である。
|