研究課題/領域番号 |
24656062
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
桂 誠 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70304003)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 非線形性誤差 / 多点校正 |
研究実績の概要 |
電圧比を位相に変換することによって、ゲインやオフセットのドリフトが低減する事が分かった。しかし、この方法はスイッチングによって得られた階段状の信号形を評価する唯一の方法ではない。実験データを詳細に検討すると、各段毎の信号レベルを平均化して計算しても同様の効果が得られる事が分かった。 そこで、本方式の優位性を再検討する事にした。検討の結果、階段状関数に含まれる高調波をキャンセルする事で非線形性が低減する事に思い至った。早速、2倍高調波をキャンセルするために、電圧比ー位相変換回路の後段増幅器を構成する反転増幅器に信号加算端子を追加し、FPGAの基準クロックと同期させたファンクションジェネレータによって生成した2倍高調波を加えた。ADコンバータの出力信号をフーリエ変換し、2倍高調波のパワーが120dB以下になるように加算する2倍高調波の振幅と位相を調整し、非線形性の低減効果を計測したところ、最大で6ppm程度あった非線形性誤差が2ppm以下程度まで低減された。この結果を理論的にシミュレートしたところ、ほぼ実験結果が説明できた。 これは電圧比計測以外にも広く応用が可能な極めて一般化可能な方法論であり、例えば典型的には、ダブルビームによる分光計測に利用できる。また、今年度の実験では正確な電圧比の値として、市販のデジタルボルトメータの比計測機能を利用したが、このような高精度の比計測の基準がなくても、高調波キャンセルの有無による位相の変化から非線形性誤差を見積もる事ができる。 この事を用いれば、計測器の多点校正も可能である。なんらかの方法で安定した階段状信号が生成でき、制御された高調波信号の加算によって高調波キャンセルが可能ならば、多点校正装置が実現できる。実際の計測時には任意の信号形に対応可能である。比計測によらず、多くの計測装置、センサーに適用できるはずである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予想していたジッターノイズはそれほど本質的ではなく、元々の電圧計測器のノイズレベルに加えて、スイッチングノイズが全体のノイズレベルをほぼ決めているようである。このような事情により、予定していたオーディオ用録音機器の購入は見合わせた。 一方、予定していた10ppbの安定性は実現していない。実現しなかった最大の理由は、安定性を計測する手段が得られていないためである。乾電池を電圧源にする方法は安定化に長時間の待ち時間を要するため、研究の効率が悪くなることが分かった。また、市販のデジタルボルトメータは仕様以上の安定性を示すことがわかったので、容易に本研究の優位性を示すことができないことが分かった。その意味では研究は遅れている。 しかし、予定していなかった非線形性誤差の低減方法を考案し、実現する事ができた。これは非常に画期的な方法であり、非常に広い物理計測全体に亘る応用も見通すことができる。 結論としては、全体として順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果により、非線形性を低減した電圧比計測が実現する見通しがついたので、これを市販のデジタルボルトメータに適用する事が考えられる。しかし、その場合でも得られた線形性を評価する方法が無い。市販の抵抗分圧器は高価であるのみならず、十分な性能を有していない。また、乾電池をベースにした電圧比発生源は安定化に時間が掛かるため、研究レベルにおいても実用的ではないことが分かった。 そこで、最終年度においては、これらに代わる電圧比源の開発を行う。重要な課題は、CMRR(同相電圧除去比)の確保である。最新のオペアンプには150dBという非常に高いCMRRを持った物があるので、これをベースに数100mV刻みの等しいステップを10段階程度持った電圧比源を実現させる。机上の設計は既に済んでおり、見通しはたっている。おそらく実現化に向けた実装上の問題は熱起電力によるドリフトである。配線部材の選択を丁寧に考察することで100ppbを超える電圧比源を実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
AD変換器としてオーディオ用の録音機を選定、購入する計画であったが、実験データを解析した結果、予想していたジッターノイズは大きな問題ではない事が分かった。その為、購入を見合わせた。その代わりに、非線形性誤差低減を実証するためにファンクションジェネレータを2台購入したので、その差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
高精度電圧比源を開発するが、その仕様は乾電池ベースではなく、抵抗器ベースである。その為、これまでの物品の蓄積は無く、新たに回路の製作が必要になる。その製作費用は当初計画よりも掛かる可能性があるため、差額を充てる予定である。
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