研究課題/領域番号 |
24656065
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
鐘本 勝一 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40336756)
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キーワード | アップコンバージョン発光 / エネルギー生成 |
研究概要 |
研究対象とする線形アップコンバージョン発光は、入射フォトンエネルギーを超えたエネルギーの発光を与える現象である。平成25年度では、前年度の延長から、まず、通常の発光において高効率な系が実現できるかを調べた。その結果、積分球を用いた絶対測定において、95%程度の高効率発光が実現できていることが分かった。ただし、その系に対して、アップコンバージョン発光を調べたところ、かなり発光が小さくなることが分かった。その原因は、スペクトルの形状から、再吸収によることが明らかであり、実際に、検出配置を変更することにより、再吸収効果が非常に大きいことがわかった。その解消のためには、試料濃度を低くすることが有効であるが、その場合、アップコンバージョン発光自体も減少することになり、有効な打開策とは言えない。特に、なぜそれだけ再吸収効果が大きいのかについての原因を考察している。加えて、アップコンバージョン発光の太陽電池への応用について、検討を行った。そのために、まずは、アップコンバージョン発光の発光帯に吸収をもつ太陽電池の作成を検討した。一般のシリコン太陽電池では、可視光全体を吸収するため、アップコンバージョン発光を得ること自体が難しくなる。そのため、有機薄膜太陽電池と色素増感太陽電池を対象に考えた。まず、それぞれの太陽電池の作成技術を確立させ、その物性評価も進めた。その後、色素増感太陽電池についてアップコンバージョン発光の応答を調べたが、目立った応答が観測されなかった。色素増感系では、元々、酸化チタン層を通過する上での光のロスが大きいため、有機薄膜系の方が適するのではと考えて、素子作成に取り組んだが、既存の真空蒸着装置が故障し、その原因が長期にわたって解明できず、研究が進展できなかった。ようやく年度間際になって復旧したが、研究を十分に遂行できる時間がなく、延長申請するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
もともと、発光効率が100%に近い系を実現させ、その系に対してアップコンバージョン発光を適用することが目的であったが、実際に、95%程度の系が実現できていることが、積分球を用いた測定から確認できた。ただし、その系におけるアップコンバージョン発光の量は、予想外に小さいことがわかり、その原因は再吸収であることがわかった。なぜそのような強い再吸収効果が生じるのかについて、原因は解明できていない。それが、応用を考える上では、深刻な問題となっており、研究の進行が遅れる原因となっている。 また、当初の予定通り、太陽電池への応用についても検討したが、安定な太陽電池自体の作成に、予想以上に時間を要した。その応用の可能性については、検討を種々行ったが、年度後半において、長期の装置故障が発生してしまい、まだその有用性を確かめるまでには至らかなかった。特に、上述の再吸収効果による発光ロスの原因究明の遅れも重なり、全体的に見て、進行が遅れていると言わざるを得ない状態である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、問題となってる原因の一つは、再吸収効果が非常に大きいため、外部に取り出されるアップコンバージョン発光が少なくなることである。一方で、通常発光では、同じ発光スペクトル形状にも関わらず、大きなロスが生じない。そのため、励起光と発光の位置関係を精査すれば、打開策が見いだせるかもしれないと考えている。その実現のために、さまざまな光学配置の発光検出実験を実施し、最適な検出配置を明らかにし、高効率アップコンバージョン発光の実現に努めていく。 太陽電池への応用については、太陽電池自体に、アップコンバージョン発光を生じさせるための透過性をもたせることが最も効果的と考えている。さらに加えて、その発光を吸収できるような太陽電池系を選定し、作成させることが有効になると考えている。既存の、これまで広く用いられてきた太陽電池系では、いい系が余り見当たらない。そのため、最適な系に関する素子作成をまずは自らで構築させ、その系に対するアップコンバージョン発光の有用性を明らかにすることに着手する予定である。それが確認できれば、一般の太陽電池系に拡張するためには如何にすれば良いかについて、その条件を明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は本来の最終年度に当たり、太陽電池に対して、アップコンバージョン発光を利用するための基盤技術を開発することに重点をおく計画であった。そのための、太陽電池の作成を行うための実験を行っていたが、その実験を行っていた年度中盤頃から、素子作成に必要な真空蒸着装置が故障した。特に、その原因が特定できず、究明に4か月ほどを要してしまった。それが原因となり、素子作成がずっと行えなかったため、研究計画が大幅に遅れ、太陽電池への応用の可能性の可否について、結論付けることが出来なかった。それが原因となり、補助事業の延長手続きを行うことに決め、申請を行い、実際に受理された。 上述の通り、原因不明の装置故障で研究の進行が遅れたが、現在、概ねその装置復旧で完了しているため、従来の計画に沿った研究の残りについて、本年度遅延なく行う計画をしている。まず、アップコンバージョン発光の利用に適した太陽電池の制作を行うために、必要試薬と蒸着材料等の購入に、使用額の残りを重点的に使用する。また、アップコンバージョン発光を効果的に発生させるための、励起光源の購入についても考えている。それらの使用を経て、これまでの計画通りの適正な予算執行の実施により、アップコンバージョン発光の太陽電池への利用を、何とかして実現させたいと考えている。
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