研究対象とする線形アップコンバージョン発光は、入射フォトンエネルギーを超えたエネルギーの発光を与える現象である。前年度までは、アップコンバージョン発光が最大となる条件について検討を行ってきた。その結果として、アップコンバージョン発光では、発光を与える際の再吸収効果が非常に大きいことが分かった。本年度は、当初の計画通り、アップコンバージョン発光を太陽電池に応用する試みを行った。その主な狙いは、太陽電池に利用されず透過する光を、アップコンバージョン現象を利用して短波長化し、再び太陽電池へと導入するものである。アイデア自体はシンプルである一方で、アップコンバージョン色素を太陽電池内に導入することで、太陽電池の効率が低下することが想定されるため、その技術は困難であった。そのため、まずはその原理適用に向けて最適な太陽電池の作成に取り組んだ。色素の発光に適合する太陽電池として、有機薄膜と色素増感型太陽電池に取り組んだが、素子の安定性の面で、後者の方が適することが分かった。続いて、アップコンバージョン色素を用いるアイデアとして、色素増感型の光出射方向に直接色素を張り付けるのが最適と判断した。さらに、用いる色素の発光に対して、最も相性がいい吸収体をもつ色素増感太陽電池を調べ、実際にその素子を完成させた。その太陽電池に対して、実際にアップコンバージョン色素を接近させて配置し、光電流の変化を追跡した。結果として、非常にわずかではあったが、光電流値の増加がみられた。一方で、その増加が、真にアップコンバージョン現象の効果に由来するかについては、用いたアップコンバージョン色素を封じたガラスセルの反射の寄与も否定できず、完全に証明できたとはいえない結果となった。しかしながら、技術の最適化を経ることで、この原理と手法により太陽電池の効率増加を実現しうることを提示した意味で、意義が得られたと考えている。
|