研究課題/領域番号 |
24656067
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研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
小平 聡 独立行政法人放射線医学総合研究所, 研究基盤センター, 研究員 (00434324)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 放射線 / 粒子線 / 検出器 / 高分子 |
研究概要 |
最も高感度な固体飛跡検出器として知られているCR-39ポリマーは、個人被ばく線量計の中性子検出用素子に採用されているなど、実用社会において広く利用されている。一方で、なぜCR-39が高感度特性を有しているのか、どのような反応メカニズムで飛跡が生成されるのか、といった基本原理は未だ明らかにされていない。本研究では、CR-39の化学構造をベースに、直鎖分子間の長さが異なるポリマーを作製し、重粒子に対する応答感度と放射線照射に伴う分子結合切断の相関を系統的に調べることを目的とした。 CR-39のモノマー(Diallyl Diglycol Carbonate)に類似したC=Oのエーテル結合の数を変えた分子間長の異なるDiallyl化合物を基に新たなポリマーを3種類(1,4-Butanediol diacrylate(BUT)、Triethylene glycol dimethacrylate(DM)、Tetraethylene glycol diacrylate(GD))合成した。 製作した計4種類のポリマーについて、飛跡検出器としての動作を確認するための、化学エッチング特性、重イオンビーム照射による飛跡生成の可否、重イオンのエネルギー損失量に対する応答感度の関係について調べた。エッチングは70℃に保持した7規定のNaOH水溶液を用いた。BUT、CR-39、GDについてはエッチング線形性を確認し、重イオン飛跡生成を確認した。一方、DMはエッチングが進行せず、重イオン飛跡も確認できないため、飛跡検出器としての動作は困難であることがわかった。これはアリル基に結合するメチル基が立体障害となっていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究目的に沿って、CR-39の化学構造をベースに直鎖分子間の長さが異なるポリマーを計4種類製作するに至った。更に、飛跡検出器としての動作確認や重イオンに対する応答感度を調べるなど、一連の基礎データ取得を終えた。従って、本研究計画の初年度の目的を十分達成し、概ね順調に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度では予定していたポリマー製作と飛跡検出器としての基礎データを取得することに成功したが、C=O間のエーテル結合数と重イオンに対する応答感度の間には直接の相関は確認できなかった。これには重イオン照射から飛跡観察までの間に2つのプロセスが介在するためと考えられる。重イオン照射時の分子結合切断の過程とエッチング処理による飛跡生成の過程である。C=O間のエーテル結合の数の増加に伴い、分子結合切断量が増えたとしても、カルボニル基の加水分解の程度によって飛跡生成感度が依存するために、観測できない。そこで次年度では、製作したポリマーを薄膜化し、重イオン照射後のエーテル結合の切断量について赤外分光法を用いて測定する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画では予算の大部分を新規のポリマー製作費用として計上していたが、安価かつ研究を進めるうえで十分な量のポリマーを製作することができた。初年度で明らかになった事実を基に研究を進展させるために、次年度では当初計画の一部を変更・追加し、赤外分光法を用いた重イオン照射後のポリマー中のエーテル結合切断量を測定する予定である。赤外分光法による測定にはポリマー試料を薄膜化する必要があるため、ミクロトームの購入を予定している。次年度ではこのほか、エッチング試薬と研究打合せと成果発表のための旅費交通費を計上している。
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