研究概要 |
個人被ばく線量計などに利用されているCR-39はプラスチックの中でも最も高感度な固体飛跡検出器として知られている。一方で、なぜCR-39が高感度なのか、どのようなメカニズムで飛跡が生成するのか、といった基本的な原理は明らかになっていない。本研究では、CR-39の化学構造をベースに、直鎖分子間の長さが異なるポリマーを作製し、重イオンに対する応答感度と放射線照射に伴う分子結合切断の相関を調べることを目的とした。 CR-39モノマー(Diallyl Diglycol Carbonate)におけるC=O間のエーテル結合の数・長さに着目した。Diallyl化合物を基に、1,4-Butanediol diacrylate (BUT)、Triethylene glycol dimethacrylate(DM)、Tetraethylene glycol diacrylate(GD)の分子間長の異なる4種類のポリマーを製作した。エッチング特性ならびに重イオン飛跡の生成の可否、重イオンのエネルギー損失量に対する応答感度を調べた結果、DM以外の3種類は、エッチング線形性とともに重イオン飛跡生成を確認した。DMはアリル基に結合するメチル基が立体障害となることが分かった。重イオン照射前後での赤外吸収スペクトルを顕微FT-IR法により測定し、全ポリマーについてC=O及びC-O-Cの同定に成功した。CR-39・BUTは照射による吸光度の減少を確認した一方、DM・GDについては増加傾向を確認した。イオン照射による架橋効果の可能性が考えられる。 本研究において、直鎖分子間長が異なる4種ポリマーの重イオンに対する応答と化学損傷について比較・検討することができた。今後の展開として、生成ラジカルや分子フラグメント等の測定データを集約し多角的に議論することで、飛跡生成メカニズム問題の解決につなげていきたいと考えている。
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