研究課題/領域番号 |
24656070
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
寺田 賢二郎 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (40282678)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 計算力学 / 六方晶金属 / 機械材料・材料力学 / 有限要素法 |
研究概要 |
添加元素であるイットリウムの効果として、初期底面CRSSが増加するという仮説をたて、この値を変化させた多結晶数値モデルを複数用いてケーススタディを行った。ただし、本年度は微細粒を仮定して変形双晶は発現しないものとし、塑性変形のみを考慮した。その結果、初期底面CRSSが高くなるほど、潜在硬化の影響により、変形初期段階に多くの底面すべりを生じた結晶粒に柱面すべりが卓越することを確認した。そして、小さいすべり量で飽和応力に達する柱面すべり系は、巨視的変形の比較的早期に変形抵抗力を消失することで微視的領域(多結晶スケール)においてすべり変形が集中・局所化し、せん断帯が形成され、これが引き金となって巨視的破壊に至る可能性を示した。以上より、初期底面CRSSを増加により降伏強度は増加するものの、巨視的延性を向上させるとは考えにくいと結論づけた。関連の論文『結晶塑性有限要素法を用いた圧延集合組織を有するマグネシウム合金の変形・強度発現機構の解明』は、現在機械学会論文集に投稿中である。 また、本研究の主題に対して、熱力学に基づいて変形双晶構成則の定式化を行い、これを結晶塑性FEMに実装した。この際、空間的に不連続に分布する変形双晶を連続体の材料挙動で表現するために、変形双晶の存在率を内部変数とし、それが散逸不等式を満たすような発展方程式を導いた。そして、上記ケーススタディを行った際の計算プログラムに実装し、簡単な数値解析によりその基本性能を検証した。特に、変形双晶・結晶塑性FEMを開発し、実験データ(文献値)を用いたキャリブレーションにより変形双晶モデルの材料パラメータを同定し、単結晶および多結晶体に対する解析を通して、提案した変形双晶モデルが理論および実験的知見を再現できることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究内容と達成目標は、以下の2点であった。 (1) 六方晶金属に対する結晶塑性有限要素法(FEM)のコンピュータプログラムを整備し、Mgの合金化に伴う特定のすべり系の降伏強度の増加や硬化特性の向上を想定したケーススタディを行う。具体的には、底面すべり系の臨界分解せん断応力(底面CRSS)の異なる多結晶数値モデルに対する数値解析結果を比較することで、底面CRSSが他のすべり系の微視的強度・硬化特性に及ぼす影響を明らかにするとともに、巨視的な延性や降伏強度への影響を調査する。 (2) Mg合金における変形双晶の構成則を、熱力学に基づいて定式化し、結晶塑性FEMプログラムに実装する。 「研究実績の概要」でも述べたように、この二つは概ね達成し、論文化もできた。さらに双晶の構成モデルについてはプログラム実装までの予定であったが、文献から入手できた実験結果を元に材料パラメータをキャリブレートし、簡単な検証ができた点で、予定以上の成果が収められた。これは、提案しようとしていた、「熱力学に基づく構成モデル」が当初の推察通り、形状記憶合金におけるマルテンサイト変態に対して用いた考え方を踏襲できたことが大きい。ただし、双晶の生成領域が、結晶粒界に集中し、内部に帯状になって進展進展するという実現象は再現できなかった。また、文献調査あるいは国際会議等における調査によると、高温環境化における動的再結晶との相互作用についても、強度との関連が大きいことがわかり、そのような材料挙動の表現ができるモデルではないことも明らかになった。 したがって、総合的には予定以上の面もあるが、事前の調査以外に、モデル化上で重要な視点が見つかったため、達成度としては「予定通り」とした。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度は、H24年度に開発した六方晶金属に対する変形双晶・結晶塑性FEMプログラムについて、予測精度および計算効率の改良を行う。そして、単結晶および多結晶体の変形双晶発現に関する理論および実験の再現性能を確認するとともに、多結晶モデル内での変形双晶の発現箇所や格子回転後の方位情報を実験結果と比較し、モデルの妥当性を検証する。具体的には、多結晶体に負荷‐除荷‐再負荷の順に負荷を与える解析を行い、実験でも観測される巨視的応力‐ひずみ曲線のヒステリシスカーブ、ならびに多結晶体内での局所的な応力緩和挙動を再現する。そして、実際の実験で用いられた多結晶構造を模擬したモデルに対して本解析手法を適用し、予測した変形双晶の発現箇所や格子回転後の方位情報が実験結果と一致することを例証する。 また、イットリウム添加の効果として、c軸変形を許容する錐面すべり系の初期CRSSおよび硬化特性に着目したケーススタディを行い、微視的変形機構を調査するとともに、本研究の次に行う発展研究に向けたパイロット研究として動的再結晶を模擬した解析も実施する。具体的には、イットリウム添加の効果の一つとして考えられる、錘面すべりの初期CRSSおよび硬化パラメータを変化させるケーススタディを行い、材料パラメータと錐面すべり系のすべり量やひずみ勾配、および応力分布等の変化との相関を調査することで、錘面すべり量を増加させる主な要因について、CRSSの飽和値の影響を調査する。さらに、今後実施予定の巨視的延性・強度に対する動的再結晶の影響評価のパイロット研究として、錐面すべりが卓越した領域の結晶方位を人為的に変化させる解析を行い、方位変化後の応力、弾性エネルギー、すべり量等が比較的大きく変化することを確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度は、「研究実績の概要」に記したように、熱力学に基づいて変形双晶構成則の定式化を行い、これを結晶塑性FEMに実装するとともに、論文化まで行うことができたが、文献や海外での研究活動の調査が十分ではなかったこともあり、「達成度」の箇所で述べたように、課題も浮かびあがった。また、論文化を優先したために、海外での成果発表など予定通りではなかった。したがってH25年度は、海外での調査および成果発表を目的とした海外旅費を多く計上し、利用することにする。 また、構築した構成則をプログラムに実装する作業は、研究補助員に補助してもらう予定であり、そのための人件費を計上して利用することにする。また、この研究補助員には、検証例題の計算よよびケーススタディを目的として、大規模並列計算も実施してもらう予定であり、ある程度の工数で計上することとした。
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