研究課題/領域番号 |
24656073
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
中嶋 徳正 福岡工業大学, 情報工学部, 准教授 (60380680)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ANSI/IEEE Std 754-2008 / 2のn乗倍精度浮動小数点演算 / 高速多重極アルゴリズム |
研究概要 |
研究代表者はIEEE Standard for Floating-Point Arithmetic (ANSI/IEEE Std 754-2008) の仕様に従い,実数型および複素数型の2のn乗倍精度浮動小数点演算ライブラリの開発に取り組んだ.また,計算機およびコンパイラ側で標準装備されている既存の単精度および倍精度データとの相互変換およびユーザ側からの数値の入出力に対応するためのインターフェースも用意した.ただし,現在までの達成度の項目で述べる諸般の事情により,2のn乗の値は1(単精度),2(倍精度),4(4倍精度),8,16,32,64にとどまった.また,高速多重極アルゴリズムの実行に必要なすべての数学・物理定数,初等関数および特殊関数の作成までには至らなかった. 作成した浮動小数点演算ライブラリを用いて高次のLaguerre多項式とHermit多項式の零点の求解を行った.数値実験の結果,どちらの関数に対しても現有の倍精度演算においては10次程度で得られた零点の精度が急激に劣化する.これに対して,64倍精度まで拡張させることにより100次までの多項式に対して小数点以下300桁以上の非常に高精度な零点を得た. 上記より,従来の倍精度演算では実現が困難であった高次のHermitおよびLaguerre多項式の零点を高精度に得ることが可能となった.これらの多項式の零点はそれぞれ区間[-∞: ∞]および[0: ∞]を対象とする高精度数値積分公式であるGauss-Hermit公式およびGauss-Laguerre公式に利用される.また,多くの有効桁数を必要とする難解度の高い方程式への求解が可能となる.このように,本研究課題である波動場計算以外の科学技術分野への発展に貢献できるという点では大変有意義な成果といえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2のn乗倍精度浮動小数点演算ライブラリについて,当初はユーザ側が動的にn値を設定できるよう設計されたものを開発する予定であった.しかしながら,その実現はコンパイラの仕様上非常に困難であることが分かった.このため,各n値に対して個別のライブラリを作成することになった.また,個々のライブラリに対する演算結果の妥当性(演算が正しく実行されたこと)の検証においては膨大な桁数の規範問題(四則演算)を手計算で作成する必要があった.このように,プログラム開発や結果の検証に非常に多くの時間が費やされたため,当初研究計画に対して遅れる結果となった.
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今後の研究の推進方策 |
2のn乗倍精度浮動小数点演算ライブラリについては,当初予定とは異なり,2のn乗値が1(単精度),2(倍精度),4(4倍精度),8,16,32,64にとどまった.また,各精度に対する演算結果の検証に多くの時間を費やした.このため,次年度以降では2のn乗値を増やすことをいったん中止し,まずは当初研究計画において今年度後半に行う予定であった新型の高速多重極アルゴリズム(FMA)の実装に必要なLaguerre多項式の次数と2のn乗倍精度浮動小数点演算ライブラリの指数値nとの関係を明確にする.その後,次年度の研究計画であるスカラ波動場向け新型FMAのGPUまたはコプロセッサでの実装に挑戦する.ただし,GPUおよびコプロセッサ向けの実装が容易でないと判断した場合はマルチコアCPUやマルチCPUを利用した並列実装に切り替えることも検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度においては計14種の数値演算ライブラリの開発と演算結果の妥当性の検証に多くの時間を費やした.その結果,当初予定に対して研究の進捗は遅れ,研究費もほとんど使うことなく終了した.次年度では作成したライブラリを用いて新型FMAの開発およびGPUまたはコプロセッサでの実装に挑戦する.このため,今年度の研究費の余剰と次年度の研究費を利用してGPUまたはコプロセッサのクラスタ機を購入する.ただし,GPUおよびコプロセッサ向けの実装が容易でないと判断した場合はマルチコアCPUやマルチCPUを利用した並列実行に切り替えることも検討するため,マルチコアCPUのクラスタ機の購入も視野に入れる.いずれにおいても,購入にあたってはベンダーの動向に注視し,できる限り最新の機材を購入できるようタイミングを見定める.また,研究成果を積極的に公表するための研究費を利用する.
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