研究課題/領域番号 |
24656073
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
中嶋 徳正 福岡工業大学, 情報工学部, 准教授 (60380680)
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キーワード | ANSI/IEEE Std 754-2008 / 多倍長演算 / Gauss-Laguerreの数値積分公式 / Laguerre多項式 |
研究概要 |
今年度の研究活動においては,昨年度開発したIEEE754形式に準拠した1(単精度),2(倍精度),4(4倍精度),8,16,32,64倍精度実数型ならびに複素数型の多倍長浮動小数点演算ライブラリの演算結果に著しい誤差が確認された.このため,約半年をかけて全17種類のライブラリのソースプログラムに対して誤差の原因の特定とその修正(バグフィックス)を行った.この作業と並行して第2四半期以降より,バグフィックスが終了したライブラリを利用して,Gauss-Laguerreの数値積分公式の実行に必要な高次Laguerre多項式のすべて零点とその零点における関数値(同公式における重み係数)の算定,ならびに多倍長演算ライブラリの性能評価に取り組んだ.C言語において従来装備されている単精度ならびに倍精度型浮動小数点演算ではそれぞれ18次および98次の多項式までしか取り扱うことができない.また,求めた零点の相対誤差は単精度で13次,倍精度で22次を超えると1を超え,1桁も信頼できないほど精度が劣化する.これに対して,代表者が作成した64倍精度演算では210次を超えるLaguerre多項式に対してもその零点の相対誤差は10-400 以下と極めて高い信頼性を持つデータを得ることができた.ただし,この結果を得るためには数週間もの計算時間が必要であり,今後高速化が必要であることが分かった. 以上の成果は別に示すワークショップにて発表し,数値解析の分野だけでなくLaguerre多項式を利用する量子力学に関連する研究者からも高い関心を得た.また,調査活動の結果.計算時間の短縮のため並列演算を採用する場合は,アルゴリズムの特性上共有メモリ型計算機を取り入れるべきであることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究実績の概要の項で述べたように,昨年度開発した多倍長演算ライブラリ(実数版・複素数版,全17種類)の演算結果に著しい誤差が確認された.この原因の特定と修正(バグフィックス),さらには演算結果の妥当性(演算が正しく実行されたこと)の検証に半年もの時間を要した.また,高次のLaguerre多項式のすべての零点とその零点における関数値の計算において,多項式の次数ならびに多倍長演算の精度の次数が増加するほど計算時間が急激に増加した.このように,今年度は研究課題に挙げる新型の高速多重極アルゴリズムを実行するうえで欠かすことのできないデータを取得するために多くの時間が費やされたため,当初研究計画に対して遅れる結果となった.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究課題の最終年度であるため,少なくとも本研究計画に挙げる新型の高速多重極アルゴリズムの実現に向けて研究活動を進めていく.具体的には対象とする物理問題を3次元スカラ波動場問題に限定し,まずは現行の倍精度演算において新型の高速多重極アルゴリズムの開発に着手する.なお,倍精度演算では高速多重極アルゴリズムの実現に必要なLaguerre多項式の零点ならびに関数値を高精度に計算できる次数の範囲に限りがあることは十分承知している.このため,まずは算定したLaguerre多項式の零点ならびに関数値の精度とGauss-Laguerreの積分公式による数値積分の精度を明らかにする.これにより,現行の倍精度演算において新型の高速多重極アルゴリズムが適用できる範囲を明確にする.そして,本研究課題の最終目標である新型の高速多重極アルゴリズムの完成を目指す.
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