研究課題/領域番号 |
24656076
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
燈明 泰成 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50374955)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 音響共鳴 / 顕微鏡 / 燃料電池 / 電解質膜 / 吸水特性 |
研究概要 |
1.音響共鳴理論モデルの構築 水、音響共鳴板、空気なる超音波伝達系において、水と音響共鳴板との間に薄膜を挿入した場合、および音響共鳴板と空気との間に薄膜を挿入した2つの場合を考え、それぞれの場合の音響共鳴理論モデルを得た。いずれの場合も音響共鳴現象が薄膜の密度、音速、厚さに依存し、受信超音波エコーの周波数依存性を利用して薄膜の音響諸物性値が算出可能であることを示した。また構築した理論モデルを活用して、ポリ塩化ビニリデン薄膜内のマイクロバブルの検出を試み、これに成功した。 2.音響共鳴顕微鏡の試作 音響共鳴顕微鏡を試作した。ここに音響共鳴板として、透明な石英ガラス基板をはじめて用いることで、音響計測と同時に光学顕微鏡像の取得を可能にした。また音響共鳴板と薄膜間の音響結合はドライ真空吸着手法により満足させた。超音波の送受信には広帯域高周波数超音波センサを用い、倒立顕微鏡にXY自動ステージを取り付けることで、対象薄膜の面情報が取得可能な音響共鳴顕微鏡とした。 3.高周波数超音波を用いた音響共鳴現象の観察 厚さ10、15um程度の直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(LLDPE)を対象とし、試作した音響顕微鏡の有用性を検証した。具体的に以下の知見を得た。音響共鳴現象が音響物性値の不連続の大きな伝達系で明瞭に観察できることから、これまで高い音響インピーダンスを有するタングステンを音響共鳴板として用いてきた。本研究において、比較的音響インピーダンスが低い石英ガラスを用いても十分な精度で音響諸物性値が測定できることを確認した。また、部分的に熱劣化させたLLDPE薄膜の音響物性値を取得すると共に、当該測定領域の光学顕微鏡像を取得した。熱劣化領域においては音響物性値が変化すると共に、外観変化も認められた。このような音響・光学融合観察ははじめての試みであり、翌年につながる成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載のとおり、申請時に計画した研究を遂行し、音響共鳴顕微鏡を試作すると共に、理論超音波伝搬モデルを構築した。さらに本研究の遂行において、新たに透明石英ガラス基板を音響共鳴板として用いることで、音響物性値の取得に加えて、対応する領域の光学顕微鏡像の取得をも可能にした点は大きい。また、翌年に計画している高分子膜の熱劣化状況の可視化に関して、直鎖状短鎖分岐ポリエチレンに対する先行実験でその有用性を確認している。
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今後の研究の推進方策 |
申請書に記載の計画のとおり、研究を推進する。平成25年度(最終年度)は、これまでの研究成果に基づき、高分子膜物性値の画像化を試みる。具体的に、水分吸収量が異なる高分子膜の物性値画像を算出、取得することで、水分吸収による物性値の変化を可視化する。さらに、高分子膜の熱劣化状況の可視化を実現する。高分子材料はガラス繊維温度を越えると物性値が大いに変化する。薄膜の一部を熱的に劣化させ、音響共鳴画像を取得することで、高分子膜の熱劣化領域が物性値の変化として可視化、検出できるかを検証する。最終的に燃料電池用電解質膜の水分吸収量モニタリングに挑戦して、横軸に水と接してからの時間、縦軸に物性値(例えば電解質膜の密度)をプロットすることで、電解質膜の性能評価に有益な吸水曲線を定量的に取得することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(1,104,152円)のうち、1,057,644円(超薄型/高精度/XY軸一体型ステージ)は3月までに執行を完了した4月支払分である。また残りの46,508円については今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成25年度請求額とあわせ、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
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