2次元検出器(PILATUS)の各ピクセルが回折中心にコリメーションする改良型回転スリットを開発した.この回転スリットは,コリメーションが回折角度に依存しないように改良してある.他方,粗大粒中心が回折中心に存在する位置を回折する回折スポット追跡法(DSTM): diffraction spot trace method) を提案した. まず,S45Cの細粒材の曲げ試験片を用意して,回折環から回折角度を測定し,応力を測定した.得られた応力分布は負荷応力と一致し,回転スリットの有効性が実証できた.また,改良型では回折角度に関係なく,良好な応力分布かが得られた.特に,以前の円盤に垂直にスリットを入れた旧式の回転スリットで問題になった表面効果がないことから,改良型回転スリットの有効性が確認できた. 次に,マグネシウム合金(AZ31)の曲げ試験片を作成し,前述のように改良型回転スリットにて回折を測定した.マグネシウム合金試験片の回折は粗大粒のために斑点となるので,DSTMにより応力を測定した.測定された応力はひずみゲージで測定した曲げ応力とよく一致したことから,DSTMの有効性が確認された. 以上を踏まえ,改良型回転スリットとPILATUS検出器を利用して,マグネシウム合金の溶接残留応力分布をDSTMにより測定した.X線源は,SPring-8のBL22XUの挿入光源からのX線エネルギー30 keVである.本溶接材の板厚は15 mmであり,30keVのX線エネルギーで十分に透過可能である.測定した溶接残留応力マップは,有限要素法により解析した残留応力マップとよく対応しており,DSTMが内部の溶接残留応力測定に適していることが実証され,測定困難材の残留応力測定に有効であることが実証された.このことから,本研究のテーマである「測定困難材の内部応力評価への挑戦」は達成できた.
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