研究課題/領域番号 |
24656091
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
兼子 佳久 大阪市立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40283098)
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研究分担者 |
VINOGRADOV・A Y 大阪市立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10283102)
橋本 敏 大阪市立大学, 工学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (50127122)
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キーワード | 疲労 / 微視的構造 / 転位 / EBDS / ECCI |
研究概要 |
今年度は特に格子回転に着目し,破面に隣接する結晶における転位運動を検討した。純度99.99%の薄板状銅多結晶を放電加工機で板状試験片に加工し、真空焼鈍した。平均粒径はおよそ10μmであった。焼鈍材をあらかじめ繰返し硬化させた後、試験片中央に切欠きを導入してCCT試験片に成形し、疲労き裂伝ぱ試験を破断するまで行った。試験後、破面を銅めっきで保護した後、き裂伝ぱ方向に対し垂直に切断し、断面をECCI法およびEBSD法により観察した。観察面は切欠き方向に対し垂直な面とし、位置はΔKI=6.8MPam^1/2である。EBSD解析の結果、破面に隣接する結晶では格子の回転が認められた。EBSD解析をもとに,破面に垂直な線に沿った荷重軸まわりの格子回転角を計算した。回転角は個々の結晶粒の最上端の基準点とした。複数の箇所で回転角の変化を調査したが、いずれにおいても破面に接する結晶の格子回転は大きく最大10°に達していた。またその回転方向は一方向であることが確認できた。破面直下のこれらの結晶粒のECCI観察ではセル構造が確認された。一方,破面に接しない結晶粒では回転角は数度以内に抑えられていた。格子回転角は初期は,結晶粒内部において回転方向が反転し、結晶粒の上下端では方位差がほぼ0になるという特徴が見られた。これらの結晶粒のECCI観察では、ベイン構造形成が主に確認された。 破面に隣接する結晶では、き裂先端から転位が放出されるため、正負の転位の数が異なり、格子回転が一方向に起こると考えることができた。一方、破面から離れた結晶粒では、粒内の転位源から増殖した正負の転位の不均一な分布のために格子回転すると考えることができる。その場合、正負の転位数は同じであるために、結晶粒の上下端では方位が同じになったと説明することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、銅の疲労破面直下に形成される転位構造をECCI法を用いて調査し、その結果を新しい破壊解析法に応用することを目的としている。銅などの延性材料では,繰返し変形を受けると転位が自己組織化する。そのため、疲労き裂が伝ぱ後の破面近傍には自己組織化した転位が存在することになる。我々が実施した、疲労破面の複数箇所を集束イオンビーム(FIB)装置で加工した微小領域のECCI観察では、破面直下に形成されたセル組織の直径は応力拡大係数幅ΔKI値が増加するにつれ減少し、セル径から応力集中の程度を予測できる可能性を示すことができた。しかしながら、同一の応力拡大係数幅でもセル径にややばらつきがあった。ばらつきの有力な原因としては、結晶方位の影響を考えており、セルの形成過程やセルの変形能力が結晶方位に依存している可能性がある。したがって、セル径を評価する際にはEBSD法を併用し、結晶方位の情報も組み込まなければならない。しかしながら現在のところ、セル径の結晶方位依存性はまだ調査の初期段階である。結晶方位依存性は、荷重軸方向とき裂伝ぱ方向の2つのパラメータを検討する必要があり、今後早急に実験に着手する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本課題では「き裂先端近傍セル構造形成のメカニズムの解明」と「セル構造の局所観察による破壊過程の推定」を2つを目的とし研究を遂行する。 セル組織の大きさを研究として取り扱っていく際には、どうしてもその形成機構を詳細に理解する必要がある。ただし、セル構造は非常に大きな塑性ひずみ振幅領域でしか形成されないために、透過電顕を使った系統的な調査は報告されていない。H25年度までの研究結果から、破面近傍に形成されるセルにはき裂先端から大量に供給された転位が関与している可能性が示唆されている。H25年度では単一のΔK値における転位の導入における格子回転を調査してきたが、今後は異なるΔK値や結晶方位における格子回転とセル形態との関係を詳細に調査し、セル形成に必要な転位密度やセル径の応力振幅に対する変化から、セル構造の動的平衡状態を理解するようにする。 また、き裂伝ぱ中はある箇所での塑性ひずみ振幅の大きさは時系列的に変化してしまう。ひずみ振幅が大きくなる場合はセル構造の発達が生じると期待されるが、逆に振幅が小さくなる場合はセル構造がベインなどの下位組織に再構成されてしまう可能性がある。今年度はひずみ振幅の履歴が転位構造に及ぼす影響も明らかにする。 以上の結果を下地として、本来の目的であるFIB加工とECCI観察を組み合わせた破面直下の転位構造観察を実施し、微視的構造観察による破壊解析の可能性を追求する。
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