樹脂のガラス転移点(樹脂の粘度が急激に変化する温度)より低い温度の微細金型を樹脂に押し付けながら,レーザを金型表面に照射することで表面のみを加熱,樹脂が充填した直後にレーザ照射をやめる.すると,元々温度の低い金型および樹脂内部に熱が伝導し,微細構造が転写された状態で樹脂がガラス転移点以下になる.レーザの強度が高いほど,必要な照射時間が小さくてすみ,温度勾配も急になるため,必要なレーザエネルギも小さくてすむ.このプロセスをロールで行うことが本研究の目的であった.接触箇所の上流側のみをレーザで加熱して樹脂を充填,その直後レーザ照射部を通り過ぎた樹脂はガラス転移点以下に冷却され離型される.これが連続的に行われることで,大面積の微細構造転写が実現される. これを実証するために,Ni金型に光を吸収するDLCを成膜しロールに巻きつけ,透明樹脂をガラスロールで押さえつけながら,レーザをガラスロール裏面からNi金型表面に照射した.その結果,パワー密度1.3 kW/cm2のNd:YAGレーザを用いることで,ポリメチルメタクリレート(PMMA,ガラス転移点:89℃)に,600nmピッチのラインアンドスペースパターンを2mm2/sの速度で転写できた.この転写速度は,スポット照射と良く合致している.スポット照射実験ではレーザパワー密度を2倍にすると転写速度は10倍になった.今年度ではレーザパワーに限界があったためロール成形では実証はできなかったが,通常のスタンプ式熱転写に比べてはるかに早い転写が可能である.
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