H25年度は、昨年度開発した振動プレス加工実験装置を用いて、プレス加工条件が熱処理後の静的再結晶組織に及ぼす影響を調べた。純鉄板より試験片を切り出し、ひずみ取り焼鈍を行った後、振動プレス加工実験に用いた。平均プレス荷重は試験片が剪断変形を起こし始める値に設定し、ピエゾアクチュエータにて十分大きい振幅で荷重振動を与えた。荷重振動を18000回加えたのち、700℃~900℃×1時間の条件で焼鈍を行った。それらの試験片の断面を研磨し、EBSD分析により結晶粒の分布およ結晶方位分布を調べた。 その結果、①焼鈍温度700℃~800℃の試験片において、プレスで剪断ひずみを加えた部分に大きな結晶が成長している試験片が見られた。②これらの大きく成長した結晶粒はRD穂軸方向に対して<111>方向が10度以内の方位を有していた。③同条件で加工・熱処理しても結晶粒が粗大化しなかった試験片の結晶方位は②とは大きく異なる方位を有していた。 これらの結果から、剪断変形を加えたことにより特定方向の結晶が大きく成長したことが推察される。すなわち変形域内の結晶は結晶方位によって変形し易さが異なるため、結晶法によって転位の蓄積量が異なるはずであり、その後試験片を焼鈍したときこれらの転位の蓄積量の違いにより、粒成長のし易さが異なったものと推察される。そのため、剪断域内に適当な結晶方位の粒が存在した場合、優先的にその粒が成長し、一方、そのような粒が存在しない場合、粒成長が見られなかったものと説明できる。 以上より、本手法により再結晶粒の方位を制御する可能性が示された。
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