研究課題/領域番号 |
24656107
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
七尾 英孝 岩手大学, 工学部, 助教 (50312509)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
当該年度の主目的は大きくわけて二つあった.それぞれの目的に対する実績を述べる. 一つ目の目的は,自動車エンジン内環境(高温・高圧)に近い環境を作る容器の設計・作成を行うことである.摩擦・摩耗・潤滑現象解明するためにはその場観察がひつようである.そのため,高温・高圧環境下で摩擦試験可能な容器が必要であった.しかしながら,摩擦試験機を収容可能な大容積の高圧容器の取扱には資格が必要,予算内での作成が困難など,求める仕様の容器作成には至らなかった.そこで,試料となるイオン液体および摩擦材のみが導入できる小型容器を作成した.高圧に関しては,一般的な二酸化炭素ボンベ内圧と等しく40~50気圧印加可能である.高温に関しては,容器外部からホットプレートなどの加熱デバイスで100℃以上の加熱が可能な材料で作成してある. もう一つの目的は,潤滑油としてのイオン液体の選定である.選定に先立ち,従来の潤滑油として用いられている化学合成潤滑油との比較を行った.化学合成潤滑油ポリαオレフィン,リオールエステルと,別の実験テーマで実績のあったTBMP-TFSI(トリ-n-ブチルメチルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)との二酸化炭素1気圧中でのトライボロジー特性を比較した.その結果,TBMP-TFSIのトライボロジー特性として,摩擦係数はPAOおよびPOEよりもやや優れていたが,摩耗はやや化学合成潤滑油よりも多くなった.今回TBMP-TFSIを選定した理由としては,りん(P)を含むカチオン由来のりん酸塩被膜によるトライボロジー特性の向上を狙ったためである.しかしながら,これが二酸化炭素由来の炭酸塩被膜の形成を阻害してしまったものと予想された. 以上より,イオン液体の選定にはカチオン構造に注意しながら,高温・高圧の実験が必要であることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2大主目的である高圧容器作成が達成できたこと,またイオン液体の設計指針が見えてきたことから,研究は概ね順調に進んでいるものと判断される.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の進め方としては,以下の二つを並行して行っていくものとする. 一つ目は,引き続き本研究題目に含まれている「二酸化炭素の積極利用」に相応しいイオン液体の選定である.イオン液体の二酸化炭素吸収に必要な性質として次の2点が挙げられている.二酸化炭素とルイス酸-塩基的な相互作用を持つ塩基性の高いアニオンを持つこと,イオン電荷を非局在化させるバルキーな構造を持ちイオン間の相互作用を抑制,二酸化炭素を吸収する空間を持つことである.この2点から今年度使用したTFSIアニオンを持つイオン液体はやはり注目すべきイオン液体である.今回顕著なトライボロジー特性の向上が得られなかった理由として考えられるのは,イオン液体の持つ高い二酸化炭素吸収能を活かせるほど二酸化炭素を高圧に出来なかったこと,もしくはカチオンが二酸化炭素由来の潤滑被膜の形成を阻害したことであると予想される.よってTFSIアニオンを軸に各種カチオンを幅広く潤滑試験にかけることを目的とする. また,これは二つ目になるが,上記したように今回の結果はイオン液体,摩擦材を「高圧の二酸化炭素に曝したわけではない」ということである.摩擦試験は二酸化炭素中で行ったもののその圧力も一気圧であった.今回導入が叶った高圧容器でイオン液体,摩擦材を高圧の二酸化炭素に曝し,摩擦試験を早期に実現したい.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画は以下のようにする予定である. 当初予定では摩擦試験機の機構のついた高圧容器を準備する予定だったため本研究費総額の90%を充てていたが,摩擦機構が付くだけで総額を大幅に超える結果となってしまった.よって摩擦試験機構に費やすはずだった物品費をイオン液体の合成に充てたい.既製品としてのイオン液体の潤滑試験結果から推定される,最も本研究に相応しいイオン液体の合成を依頼・購入したいと思う.また,このイオン液体の発見には,ただ多種のイオン液体を用いた潤滑試験をするだけでなく,摩擦面の化学分析も行なっていく予定である.そのための分析費用に研究費を割いていきたいと考えている.
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