球形の機械要素の代表は,転がり軸受の転動体であるが,その他にも人工心臓弁や人工股関節などが球状の機械要素(インプラント)として使用され,血液の漏洩防止や関節の摩擦低減に大きく貢献している.これらのインプラントは複雑な3次元形状をとるので,表面全体を歪みなく画像化するのは特に難しく,インプラントの機能改善を阻む大きな要因の一つとなっている.トライボロジー的な解析では,表面画像を得るだけでは不十分であり,摩耗量を評価するためにその形状も正確に把握する必要がある.これまでは,ズーム顕微鏡や真円度測定機など別々の測定機を使用する必要があり,球面の測定は解像度と時間の点で不十分であった.本研究では,非接触で球表面の画像と形状を同時に測定できる方法を他に先駆けて開発することに挑戦する. 本研究では,初期の人工心臓弁である球形弁の表面形状を計測した.この人工心臓弁は,人体の中で長く使用されたものである.治具の関係もあり,球全面を観察する場合,一度治具を付け替える必要があったが,球全面を観察することができた.画像はメルカトル展開図で表示することができた.また,自作のプログラムでコンピュータ画面上に3次元画像として表示することができた. 次に球の形状を計測した.計測手法としては,共焦点レーザ顕微鏡を利用する手法と,別のレーザ変位計で計測する手法がある.本研究では計測時間を短縮できる前者の方法を採用した.球形の人工心臓弁の形状を計測したところ,部分的に摩耗量が異なり,完全な球形状から逸脱している様子が観察された.これらの摩耗状況は,3次元表示をすることができるので,これまでの表示方法に比べて,視覚的に理解しやすいことが確認できた.
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