研究課題/領域番号 |
24656126
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
川野 聡恭 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (00250837)
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研究分担者 |
土井 謙太郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20378798)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 自己組織化 / 自己集合化 / 対称性 / 群論 / 分子流動シミュレーション |
研究概要 |
平成24年度は,基板表面に形成される分子の自己集合化・自己組織化構造に着目し,その形成メカニズムを解明するための理論モデル構築が課題の一つであった.基板表面の原子配列とその上に形成される自己集合化構造の関係を明らかにするために,鎖状高分子である50塩基対のDNA断片を模した粗視化モデルを用いた分子動力学(MD)シミュレーションを行い,HOPG基板表面に形成されるパターンを解析した.粗視化MDシミュレーションの結果は,HOPG基板上の電荷分布が一様であることを仮定しているため,基板の原子配列に依存する特徴的なパターンは見られなかったが,初期配置において基板表面近傍に存在する個々のDNA断片は急速に表面吸着した後に緩やかに拡散する過程が明らかにされた.一方,同サイズのDNA断片を含む水溶液をHOPG基板に滴下し,自己集合化構造の原子像を取得することの成功した.実験結果として得られるDNAの自己集合化パターンのスケールは粗視化MDのそれに比して10倍以上のスケールで見られるものであるが,スケールの異なる両者を比較するために,フラクタル次元解析を行ったところ,よく一致する条件を見出した.このことより,DNA水溶液を基板表面に滴下した直後に基板近傍の分子から吸着し始め,その後の拡散によって自己相似的に成長していることが示唆された. 上記の成果から,次年度以降は,フラクタル次元解析に見られるように自己相似的な構造変化に着目し,さらに対称性を考慮したパターン解析モデルの発展を試みることの重要性が示された. 本年度の研究成果は,査読付き原著論文5件,国際会議発表5件,国内会議発表12件および特許出願3件として発表された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,DNA断片とHOPG基板を用いた鎖状高分子の分子流動シミュレーションにより,基板表面に見られる自己集合化パターン形成の解析を行うとともに,同様の実験を行ったところ,両者の結果がフラクタル次元の意味で一致することが示された.本研究の成果については,学術論文として投稿するとともに,国際会議にて成果発表を行った.この成果をもとに,さらに自己相似的な対称性に着目した解析モデルの構築が更なる課題として見い出されたことから,達成度としては順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に見出したDNA断片の自己集合化構造形成プロセスに基づいて,サイズの異なる分子を用いた場合の結果についても評価する.分子サイズの違いにより,それらの質量と形状の差から溶液中の流動性の違いが期待されることから,自己集合化パターンと分子サイズの関係について実験的に考察する.分子サイズによりパターンの特徴に差異がみられるようであれば,分子の拡散係数の違いが影響していることが示唆されるため,理論モデルにおいて拡散の効果を考慮することの重要性が確かめられる.次年度は,平面方向の2次元的なパターン形成と平面に垂直方向の拡散を考慮しながら実験系で起こる長時間の自己集合化現象を再現するとともに,そこに現れるパターンの特徴について理論と実験の両面から議論する.
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次年度の研究費の使用計画 |
HOPG基板上にDNA断片の自己集合化パターンを作製するためにサイズの異なるDNA断片の実験試料とHOPG基板を購入する.また,温度・湿度等の条件を適切に保つために必要な実験系を構築するための材料費として予算を使用する. 本研究で得られた結果について国内外の学術会議にて発表するための旅費と原著論文の刷り代を計上する.
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