研究課題/領域番号 |
24656137
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
芝原 正彦 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40294045)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 非平衡過程 / シュレディンガー方程式 / 非断熱過程 / 分子動力学 |
研究概要 |
本研究では量子力学的非断熱過程を原理的に理解するために,熱工学における諸問題において,量子力学的非平衡状態が平衡状態へ至る過程における熱エネルギー変換特性を直接数値解析によって明らかにすることを目的としている.本年度は以下の二つの項目について研究を実施した. ①非平衡量子状態の定式化と解析方法の検討: 電子,イオン,原子が混在するモデル系を考えて,電子は時間に依存したシュレディンガー方程式で記述し,イオンや原子に対しては古典力学で記述する基礎式を導き,それぞれの時間変化を数値解析する方法について検討を行った.本研究では,イオン加工における表面からの電子放出を表現できるモデルが望ましいと考えて,電子の波動関数を3次元の数値関数として表現する方法を適用することを考えた.次に,注目する電子の非定常変化については,時間に依存するシュレディンガー方程式を高速フーリエ変換とsplit operator法を用いて数値解析する方法を適用することを考えた.また,注目する電子とイオン間相互作用,ならびに,注目する電子と原子間相互作用には,文献調査に基づいた擬ポテンシャルをそれぞれ適用することとした. ②非平衡量子状態の熱エネルギー緩和過程解析プログラムの作成: 前記①の基礎式ならびにモデリングに基づき,数値解析プログラムを作成した.その後,作成したプログラムの確認のために,電子の数値関数を表現するグリッド間距離が系のエネルギーに与える影響,split operator法における時間刻みの影響,基礎式のカップリングの影響について,数値計算的に評価を行った. このように本研究の目的とする量子力学的非断熱過程を数値解析するプログラムの作成は終了していることから,来年度は本数値解析手法の物理的な妥当性を更に検証した後,さまざまな量子力学的非平衡過程への適用を試みる予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり,非平衡量子状態の定式化と解析方法の検討を行い,その数値解析のためのプログラミングが終了していることから,当初の計画に対しておおむね順調に進展しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度に検討した基礎式ならびに作成したシミュレーションプログラムについては,平衡状態におけるエネルギー保存など,未だ検討すべき項目が残されていることから,まずはその検討を行う必要がある.その後,それらの解析手法やシミュレーションプログラムをさまざまな量子力学的な非平衡状態に適用することで,熱工学における諸問題における量子力学的非平衡状態が平衡状態へ至る過程を明らかにしていく予定である.
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に検討した結果を基に,平成25年度は以下の研究項目を実施する. ①量子力学的熱非平衡状態の熱エネルギー緩和時間の解明: 高速粒子が界面に衝突して,熱電子が表面から放出される系において,初期電子励起状態(電子の非平衡度)と電子-原子核間の相互作用(擬ポテンシャル)をパラメータにとり,電子励起状態の熱エネルギー緩和特性時間を,数値実験的に調査する.この場合に,平成24年度に実施した熱エネルギー緩和モデルの再検討を行い,より適切な熱エネルギー緩和モデルを提案する. ②量子力学的熱非平衡状態の励起特性時間の解析: 熱工学における量子力学的熱非平衡状態,例えば界面から電子が放出されるイオン加工プロセスなどの典型的なモデル系において,電子励起の特性時間を,時間に依存するシュレディンガー方程式を前述の方法によって解くことにより調査する. ③量子力学的熱非平衡状態の熱工学的モデリング: 熱工学における典型的な量子力学的熱非平衡状態に対して,前記②の電子励起の特性時間,前記①の熱エネルギー緩和特性時間を数値解析より求めて,それらとそれぞれの熱工学的現象の特性時間の大小を比較することにより,「量子力学的熱非平衡状態を考慮すべき現象と条件」か「量子力学的熱平衡条件を仮定してよい現象と条件」かどうかを検討する.さらに,本研究で実施する方法論が,一般的な量子力学的熱非平衡状態の熱工学的モデリングに適用可能かどうかを検討する. 上記の研究計画の実施のためには,現存の計算機システムではデータ記憶容量が不足していることから,計算機に接続する大容量ストレージを購入することを予定している.また,国内外の学会で情報収集を行うとともに,研究成果を発表することを計画している.
|