本研究では量子力学的非断熱過程を原理的に理解するために,熱工学における諸問題において,量子力学的非平衡状態が平衡状態へ至る過程における熱エネルギー変換特性を直接数値解析によって明らかにすることを目的として,以下の研究項目を実施した. ①非平衡量子状態の定式化と解析方法の検討:電子,イオン,原子が混在するモデル系を考えて,電子は時間に依存したシュレディンガー方程式で記述し,イオンや原子に対しては古典力学で記述する基礎式を導き,それぞれの時間変化を数値解析する方法について検討を行った.本研究では,イオン加工における表面からの電子放出を表現できるモデルが望ましいと考えて,電子の波動関数を3次元の数値関数として表現する方法を適用することを考えた.次に,注目する電子の非定常変化については,時間に依存するシュレディンガー方程式を高速フーリエ変換とsplit operator法を用いて数値解析する方法を適用することを考えた. ②非平衡量子状態の熱エネルギー緩和過程解析プログラムの作成:前記①の基礎式ならびにモデリングに基づき,数値解析プログラムを作成した.その後,作成したプログラムの確認のために,電子の数値関数を表現するグリッド間距離が系のエネルギーに与える影響,split operator法における時間刻みの影響,基礎式のカップリングの影響について,数値計算的に評価を行った.その結果,前記①の非平衡量子状態の定式化によって,系のハミルトニアンを一定に保ちながら,量子力学的に扱った電子と古典力学的に扱ったイオンや電子との間のエネルギー交換を正確に数値解析できることを確認した. ③電子へのエネルギー伝達過程の直接数値解析:本研究で提案した数値解析法によって,イオンや原子の衝突速度が電子へのエネルギー伝達や電子の非局在化に与える影響を解析し,類似の実験データと定性的な一致があることを示した.
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