研究課題/領域番号 |
24656141
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
伊藤 衡平 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10283491)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 化学平衡 / 気液相状態 |
研究概要 |
PEFC(固体高分子形燃料電池)の電池反応にともなう生成水の相状態を特定する。この目的のために、電解質膜を通常より1000倍厚くし、物質・電荷輸送に起因する内部短絡電流を1/1000レベルに低減し、化学平衡により近い状態を構築し、平衡電圧を計測し、熱力学の知見と結び付けることで、相状態を特定する。 今年度は、電解質膜を1000倍厚くしたセルを設計製作した。すなわち電解質膜を面方向に利用し、面方向に数cm離れた場所にアノード、カソード触媒層を形成し、同時にガス流路も与え、更に、独立した流路を設けることで膜を湿潤した。長時間の計測に耐えうるよう、調湿器は大型のものを準備した。厚さ方向に長いセルは、平衡に達するのに時間を要すると予想されるため、このように長時間計測に対応できる実験システムとなるよう配慮した。 以上の準備のもと、イオン抵抗、開回路電圧測定を実施した。イオン抵抗は、高周波(1kHz)インピーダンスの計測を介して求めた。その結果、本セルは、膜厚を厚くした分の高いイオン抵抗を示した。また抵抗の温度依存性は、電解質膜の特性を示した。イオン抵抗に対しては狙った通りの結果であった。一方、開回路電圧測定では、狙った平衡電圧は得られなかった。セル温度を40、60、75℃に、ガスの相対湿度を30、60、90%として開回路電圧を計測した。温度や相対湿度に対する電圧の増減は物理的に正しい傾向であったが、値の大きさが0.97~0.98Vの範囲で、予想した1.158~1.215の範囲に収まらなかった。 平成25年度は、このように電圧が低くなった原因を明らかにして、対策を施し、再度、開回路電圧を測定し、各温度、各相対湿度に対する気液状態を解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の目標であった、膜厚を1000倍にしたセルの構築、イオン抵抗の計測、に成功しているため概ね順調に進んでいると判断できる。しかし先行して実施した開回路電圧測定では、上の報告でも示したように、セル温度やガス相対湿度に対して測定された電圧の変化の仕方は正しいものの、その大きさ平衡電圧を下回った。早急にこの原因を追究する必要がある。膜厚を1000倍にしても短絡電流が最大で1/1000分あること、特殊形状なセルのため活性化過電圧が大きいこと、などが平衡電圧より小さくなった原因と予想しているが、詳細検討は今後実施する。
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今後の研究の推進方策 |
測定した開回路電圧が、予想した平衡電圧より低くなった理由を明らかにし、迅速に対応することが、研究の推進となる。電気化学分野の研究者に質問し、考えられる理由を議論し、迅速に対策を施し、再測定する。理由が明らかにできなくとも、抜本的な対策が施せなくとも、現状装置の改造により開回路電圧を平衡電圧に近づけることができる。例えば幾何形状の工夫、触媒調整により、イオン抵抗を更に100倍、交換電流密度を10倍に、総合して1000倍の効果により、活性化過電圧を1/3にし、開回路電圧を平衡電圧に近づけることができる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の交付申請書に記述したように、外国旅費と消耗品に予算を執行する予定である。外国旅費にてECS Meeting(10月、米国)に参加し、本研究の一部を発表して、相状態マップの有効性などを国内外の関係する研究者と討論するとともに、PEFC水管理の研究動向を調査する。消耗品費には燃料電池材料や、実験システムを構成する配管継ぎ手、電気部品等に充てる。 なお、前年度、60万円を繰り越したのは、セルの設計製作の試行錯誤ができなかったことによる。実績概要でも示したが、今年度、膜厚を1000倍にしたセルを設計製作した。しかしながら、この基本設計に時間を要し、そのため実験回数を稼げず、実験結果を反映したセルの試行錯誤(改良)が間に合わなかった。このため60万円くりこすこととなった。繰り越した60万円は、セルの製作加工費に使用する計画である。
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