最終年度である平成27年度の研究では、装置材料の全面的な見直しを行い、装置を金属製の材料にて再製作して実験を行った。それはこれまでMEMSプロセス(産業技術総合研究所の装置使用)によってシリコンとホウケイ酸ガラスで製作したデバイスでは水素の濃縮効果は確認できたものの装置部品接着部の耐熱性の問題から高温側として80℃までしか昇温できなかったため原理的に分離濃度が小さかったからである。従って平成27年度では、厚さ200μmの薄いステンレス板を多数枚積層し拡散接合させてデバイス本体を製作する外注加工を利用し、その中に以前と同様なガス流路形状を作り込むことにした。その結果、高温側温度として310℃まで昇温させることができるようになり、理論値としては単段で3.3%の水素の分離が可能になる。しかし実験の結果、分離効果は単段で0.43%に留まった。理論値との乖離が大きい理由としては、ステンレスの熱伝導率の低さに起因して印加温度よりも低い温度がガスに加わった点や、ガスの流れに起因した再混合が考えられる。一方このステンレス装置では、単段から三段までの多段プロセスができるようにしてあり、1段目→2段目→3段目につれて、分離濃度は、0.43%→0.84%→1.22%と水素の濃縮が比例的に上昇することがわかり、プロセス自体は健全に機能していることが実証できた。3年間の研究から、ソーレ効果自体をうまく機能させ、また多段プロセスは成立することが実証できたと言えるが、実際の分離濃度を向上させるためには数十段に渡る多段化が、理論値に基づく予測以上に必要になることも分かった。装置を巨大化せずに実用的な分離濃度(~90%以上)を得るためには更なるアイディアが必要になるものと思われる。 以上
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