研究課題/領域番号 |
24656163
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小泉 憲裕 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (10396765)
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研究分担者 |
川崎 元敬 高知大学, 医歯学系, 講師 (50398054)
葭仲 潔 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (90358341)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 強力集束超音波 / HIFU / 超音波診断ロボット / 技能の技術化 / 技能のデジタル化 / 医療ロボット / 非侵襲 / 痛み治療・評価システム |
研究概要 |
本研究の目的は,医療技能の技術化・デジタル化により,非侵襲超音波痛み評価・治療統合システムの構築法を確立することである。本研究で提案する非侵襲超音波痛み評価・治療統合システムとは,患者が感じる痛みをオンおよびオフラインで計測・評価すると同時に痛みの発生源(患部)を抽出・追従・モニタリングしながら,超音波を集束させてピンポイントに照射することにより,患部の痛み緩和を非侵襲かつ低負担で行なおうとするものである。 このうち,研究期間内に,腰痛を対象に痛みのメカニズムを明らかにし,これを評価・治療するシステムの構築法を確立するとともに動物実験レベルでのシステムの有効性および安全性を実証する。日本国内の腰痛患者数は約1000万人であり,今後,増加する傾向にある。 当該年度は,下記の3点の研究を遂行した: (1)医療技能を機能として抽出・構造化:腰痛の痛み評価・治療における医療技能を機能として抽出した。つぎに,抽出された機能を実装に際して分類・整理することにより,機能の構造化を行なった。(2)機能を実現するためのパラメータ解析:上記で構造化された機能を実現するための各種パラメータを明らかにし,これに要求される軌道・精度を明らかにした。(3)機能の設計指針化:上記の作業により構造化され,パラメータ解析された要求機能をもとに,機能の設計指針を導出した。 具体的に当該研究期間に得られた主要な成果は下記の3点である:(i) 非侵襲超音波診断治療統合システムにおいて,治療機能を搭載するために医師の手技を解析し,必要な自由度構成を抽出することで設計指針を導出した。(ii) 上記設計指針にもとづいて,以下を実現した:①肋骨を避ける方向から患部を追従。②ヒトの患部追従精度の向上を目的とし,追従のための超音波画像の質が高くなる方向からリアルタイム撮像。(iii)肋骨入りファントムモデル実験系を構築。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,超音波医療診断・治療支援システムを構築するにあたって医療技能の技術化・デジタル化という,システム構築の方法論を確立する.医療技能の技術化・デジタル化とは,医療診断・治療における技能を機能として抽出,分解・再構築(構造化)し,これを定量的に解析し,さらに関数としてシステムの機構・制御・画像処理アルゴリズム上に実装することで,医療支援システムの開発に利用しようとするものである. 本研究では,これまでに,下記の5つのコア要素技術を基盤として,これを改良・発展させてきた:(コア技術I) 人体に対する安全・安心接触/非接触動作技術(IEEE/ASME Trans. Mechatronics(メカトロニクス分野の国際一流誌)への論文掲載),(コア技術II) 機能に応じた高精度機構設計技術(IEEE Trans. Robotics(ロボティクス分野のトップジャーナル)への論文掲載),(コア技術III) 超音波医療診断・治療技能における機能抽出・構造化技術(IEEE Trans. Robotics(ロボティクス分野のトップジャーナル)への論文掲載),(コア技術IV) 超音波診断・治療タスクに応じたシステム動作切替え技術(IEEE Trans. on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control (超音波制御分野の国際一流誌)への論文掲載),(コア技術V) リアルタイム医用超音波画像処理技術(International Journal of Medical Robotics and Computer Assisted Surgery (医療ロボット分野の国際一流誌)への論文掲載). 本研究で世界にさきがけて開発・蓄積しつつある上記のコア(核)技術は,医療機器産業分野における有望な将来技術になるものと期待されている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は,医療技能の技術化・デジタル化により,非侵襲超音波痛み評価・治療統合システムの構築法を確立することであり,研究期間内に,腰痛を対象に痛みのメカニズムを明らかにし,これを評価・治療するシステムの構築法を確立するとともに動物実験レベルでのシステムの有効性および安全性を実証する。この研究目的を達成するために,下記の5つの作業手順を順次遂行することで,医療技能を機能として抽出,構造化し,関数としてシステムの機構・制御上に実装(医療技能の技術化・デジタル化)する:(1)医療評価・治療技能を機能として抽出・構造化,(2)機能におけるパラメータ解析,(3)機能の設計指針化,(4)機能の実装,(5)基礎実験による機能の評価・改良 このうち,次年度は(4)機能実装を中心に研究を遂行する。具体的に,上記設計指針に基づいて非侵襲超音波診断・治療統合システムを構築し,上記で構造化された要求機能をシステムの機構・制御上に関数として実装することで機能の具現化を図る。機能を関数としてシステムの機構・制御上に実装するにあたっては,我々が開発してきた下記の7つのコア技術/技能を基盤として,これを発展させることで行なう。 (コア技術I) 機能に応じた機構設計技術,(コア技術II) 医療診断・治療技能における機能の抽出・構造化技術,(コア技術III) 患者に対するロボットの安全・安心動作技術,(コア技術IV) 診断・治療タスクに応じたシステム動作切替え技術,(コア技術V) リアルタイム医用画像処理技術,(コア技術VI) 超音波医療診断・治療技術(産業技術総合研究所),(コア技術/技能VII) 腰痛の痛み評価・治療技術/技能(高知大学医学部)
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次年度の研究費の使用計画 |
非侵襲超音波痛み評価・治療統合システムを構築するにあたっては,申請者らの我々がこれまでに構築してきた非侵襲超音波診断・治療統合システムのプロトタイプを基盤とし,これに機能を追加・実装することで行なう。上記を踏まえて,次年度,本研究を遂行するにあたって下記の3点の研究経費を予定している。 1点目として,患者の患部モデルおよび医師の技能(機能)モデルをコンピュータ・システム上に実現するための費用等が必要である。このために,医療用画像取得装置を新規に購入する。 2点目として,機能を高度化するためにはソフトウェアのみならず,ハードウェア・システムの改良が不可欠であり,材料費,加工費,ならびに電子・光学部品費等の消耗品費が必要になる。 3点目として,動物実験レベルでのシステムの有効性・安全性を評価するにあたって,実験ファントム/動物腰痛モデルでの実験を予定しており,そのための費用が必要である。 また,成果を当該分野にフィードバックするために,ロボティクス・メカトロニクス分野を中心に,非侵襲超音波治療技術,痛み評価・治療技術分野においても国内外の論文誌への発表,国内および国際会議での発表を予定しており,そのための旅費等が必要である。
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