研究課題/領域番号 |
24656163
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小泉 憲裕 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (10396765)
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研究分担者 |
川崎 元敬 高知大学, 医歯学系, 講師 (50398054)
葭仲 潔 独立行政法人産業技術総合研究所, ヒューマンライフテクノロジー研究部門, 研究員 (90358341)
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キーワード | 医療ロボット / 医デジ化 / 強力集束超音波 / 非侵襲超音波医療診断・治療統合システム / 医療技能の技術化・デジタル化 / 超音波診断ロボット / 超音波治療ロボット / 体動補償 |
研究概要 |
本研究の目的は,医療技能の技術化・デジタル化により,非侵襲超音波痛み評価・治療統合システムの構築法を確立することである。本研究で提案する非侵襲超音波痛み評価・治療統合システムとは,患者が感じる痛みをオンおよびオフラインで計測・評価すると同時に痛みの発生源(患部)を抽出・追従・モニタリングしながら,超音波を集束させてピンポイントに照射することにより,患部の痛み緩和を非侵襲かつ低負担で行なおうとするものである。このうち,研究期間内に,腰痛を対象に痛みのメカニズムを明らかにし,これを評価・治療するシステムの構築法を確立するとともに動物実験レベルでのシステムの有効性および安全性を実証する。 具体的に,本年度は疼痛軽減効果のメカニズムを解明するために,小動物(マウス)を対象とする痛み評価・治療実験用システムのプロトタイプを構築した.構築したシステムは,(1) 並進3軸の位置決め機構を有する.(2) ステレオのレーザポインタを利用した強力集束超音波の高精度焦点位置決めシステムを構築し,マウスの膝関節の任意の位置にピンポイントで強力集束超音波を照射することを容易化した.(3)照射用超音波トランスデューサは実験条件に応じて交換可能なものとし,側面窓を配置するなど,メンテナンスを容易化した. 痛みの評価系においては,(4) マイクロCTにより観察するシステムを構築した.照射実験の結果,集束超音波照射後,2週間目ではマイクロCTによる観察において変化が認められなかったにもかかわらず,照射2ヶ月後では患部の変形が認められた.これは成長軟骨の壊死によって生じるものと推察しており,今後,どのような集束超音波照射条件で壊死が発生するかを同定できれば,痛み治療システムの安全性の向上に資するものと期待している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々の研究グループでは,MRI画像誘導のHIFU治療器(MRgHIFU)を用いたがん性疼痛に対する治療として有痛性骨転移の疼痛緩和治療のみならず,非がん性の疼痛治療を対象として椎間関節性腰痛の疼痛治療や変形性膝関節症の疼痛の治療としての有効性と安全性に関する極めて先進的な臨床研究を施行してきた. 具体的には,各疼痛性疾患に対して治療を実施し,疼痛の軽減の有効性および安全性を検証・報告してきた.この有効性は,疼痛の発生源に超音波を集束することで非侵襲的に骨表面の組織温度を上昇させ,痛み刺激の受容器や神経線維の機械的破壊および蛋白変性により疼痛が軽減されることによるものと考えている. 上記の疼痛軽減効果のメカニズムを解明するために,本研究ではこれまでに小動物(マウス)を対象とする痛み評価・治療実験用システムのプロトタイプを構築した.構築したシステムは,(1) 並進3軸の位置決め機構を有する.(2) ステレオのレーザポインタを利用した強力集束超音波の高精度焦点位置決めシステムを構築し,マウスの膝関節の任意の位置にピンポイントで強力集束超音波を照射することを容易化した.(3)照射用超音波トランスデューサは実験条件に応じて交換可能なものとし,側面窓を配置するなど,メンテナンスを容易化した. 痛みの評価系においては,(4) マイクロCTにより観察するシステムを構築した.照射実験の結果,集束超音波照射後,2週間目ではマイクロCTによる観察において変化が認められなかったにもかかわらず,照射2ヶ月後では患部の変形が認められた.これは成長軟骨の壊死によって生じるものと推察しており,今後,どのような集束超音波照射条件で壊死が発生するかを同定できれば,痛み治療システムの安全性の向上に資するものと期待している.
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今後の研究の推進方策 |
近年,強力集束超音波技術は海外企業が先導する形でMRガイド下での強力集束超音波治療(HIFU)技術の開発競争が激化しており,国内企業のHIFU技術の開発は不十分である.MRガイド下でのHIFU技術の主な治療対象は腫瘍性疾患や脳疾患であり,大型の治療器であるため,OAに伴う疼痛に対して応用するにはコスト面で不向きである.そのため,HIFU技術の開発にあたっては,治療対象を海外で注目度の低いOAの慢性痛とし,日本の利点である高度な超音波診断技術を生かした超音波画像誘導下でのHIFUの小型治療器を研究・開発することで国内の多くのOAの慢性痛患者の治療需要を満たすとともにグローバル市場への有利な展開を図れるものと期待している. また,これまでのHIFU治療は,主に腫瘍性疾患(前立腺癌,子宮筋腫,乳癌,肝細胞癌,膵癌等)に対する治療として臨床応用されてきた.この技術を慢性痛治療に応用するとともにこれに特化した全く新しい次世代の非侵襲超音波痛み評価・治療システムを開発することで,全く新しい非観血的で患者にとって安全・安心・思いやりの疼痛治療法が実現するものと期待している.本システムによって患者にもたらされる疼痛軽減効果およびそのメカニズムの解明は医療の質および患者の生活の質の向上に大きく寄与するものと期待している. 具体的に,上記システムのプロトタイプシステムを構築し,実際のマウスに対して照射する実験を行ったところ,より高精度な強力集束超音波照射のためには『対象のマウスを高精度に固定するとともに患部を超音波診断装置を用いてモニタリングする』という新規の課題が抽出された.これを踏まえて,次年度以降,患部を高精度に固定するためのジグおよび患部をモニタリングするための超音波診断装置を追加実装し,さらなる医療の質および患者の生活の質の向上を図る.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は疼痛軽減効果のメカニズムを解明するために,小動物(マウス)を対象とする痛み評価・治療実験用システムのプロトタイプを構築した.構築したシステムは,(1) 並進3軸の位置決め機構を有する.(2) ステレオのレーザポインタを利用した強力集束超音波の高精度焦点位置決めシステムを構築し,マウスの膝関節の任意の位置にピンポイントで強力集束超音波を照射することを容易化した.(3)照射用超音波トランスデューサは実験条件に応じて交換可能なものとし,側面窓を配置するなど,メンテナンスを容易化した. 上記のプロトタイプシステムを実際のマウスに対して照射する実験を行ったところ,より高精度な強力集束超音波照射のためには『対象のマウスを高精度に固定するとともに患部を超音波診断装置を用いてモニタリングする』という新規の課題が抽出された.このための費用を次年度に使用する予定である. 次年度においては,今年度抽出された『対象のマウスを高精度に固定するとともに患部を超音波診断装置を用いてモニタリングする』という新規課題を踏まえて,すでに構築した小動物(マウス)を対象とする痛み評価・治療実験用システムのプロトタイプに対して,マウスを高精度に固定するとともに超音波診断装置により患部をモニタリングするためのシステムを追加実装する.次年度使用額はこのための費用に充当する予定である.
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