研究課題/領域番号 |
24656170
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮崎 文夫 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (20133142)
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研究分担者 |
植村 充典 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (00512443)
平井 宏明 大阪大学, 基礎工学研究科, 講師 (60388147)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 機能的電気刺激 / 筋シナジー / FES / 筋電 / 運動支援 |
研究概要 |
本研究では下肢運動に着目し, 典型的な日常動作である歩行運動をタスクとして扱う。申請者らの過去の研究において、歩行動作のEMG(筋電位)パターンから筋活動の協調関係(筋シナジー)を抽出しタスク変数で表現された運動指令を推定する技術(特願2009-212149)を用い、 (1)ある歩行速度域において, 筋活動がパターン化され、(2) 関節拮抗筋ペアの筋電位比率と歩行パターンが著しく一致する、という大きな2つの知見を得ている。平成24年度には、人工的に与えた筋拮抗比・筋活性度を電気刺激パターンに変換し、拮抗筋ペアを同時電気刺激することにより、意図通りの関節運動が生成できることも確認した。これに基づき、歩行動作中のEMGから筋シナジーおよび運動指令を抽出・推定し、電気刺激パターンに変換する方法を提案した。 また、ユーザ個人の運動に応じた電気刺激(刺激パターンとタイミング)を適切に行うためには、各ユーザに依存した身体運動モデル(筋コマンド生成モデル)の同定が不可欠である。しかし, 出力である筋活動は複雑な非線形性、時変性を有し、また動作履歴にも依存することから、その陽な表現を得ることは極めて困難である。そこでまず、1歩行周期を複数の歩行相に分割し、各相毎にユーザの身体運動特性を記述する入出力データベースを実験的に獲得し、統計マップ近似により上記問題の解決を図った。具体的には, 電気刺激を与えない時の筋協調パターンをベースにし、複数筋肉の電気刺激パターンとタイミングの組(入力)を様々に変化させることで運動支援パターンを変え、実際に行われた動作の運動情報(出力)との入出力ペアを逐次蓄えていくことで入出力マップを構築した。また、電気刺激付加に伴う筋シナジーや中枢からの運動指令の変化に着目し、ヒトの身体運動に関わる長いスパンの適応機能のモデル化も試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、人工的に与えた筋拮抗比・筋活性度を電気刺激パターンに変換し、拮抗筋ペアを同時電気刺激することにより、意図通りの関節運動が生成できることも確認した。また、歩行動作中のEMGから抽出・推定した筋シナジーおよび運動指令を電気刺激パターンに変換する方法を提案した。 また、本研究では電気刺激を与えない時の筋協調パターンをベースにし、複数筋肉の電気刺激パターンとタイミングの組(入力)を様々に変化させることで運動支援パターンを変え、実際に行われた動作の運動情報(出力)との入出力ペアを逐次蓄えていくことで入出力マップを構築した。 これらは、交付申請書に記載した研究の目的である、多チャンネルFESの効果的な制御方法の確立に関する重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、申請者らが所有している筋電計測設備に加えて、運動計測設備を購入することで多チャンネルFESの効果的な制御法の確立を行なってきた。当初の計画では力学計測を行うことで実験結果の検証を補強する予定であったが、力学計測なしでも十分な結果が得られた。 今後は、運動支援時には平成24年度に構築した各歩行相の入出力マップの逆写像を用いて、望ましい出力を生成する電気刺激入力を与えることで、ユーザに応じた身体部位の制御が行えることを実証する。獲得した個人の身体運動情報を組み込んだ筋骨格シミュレータモデルを作成し、FESコマンドの応答確認を行う。シミュレータ・ロボット実験を通して適切な運動支援筋コマンドが決定された時点で、実際にFESによりヒトの筋刺激を行い、運動学習支援を行う。 また、提案手法をリハビリテーションとスキルコーチングの2つの分野に応用し、複数の被験者に対し運動技能支援効果を検証する。 現在、FESによって足先の歩行支援を行う装着型歩行支援装置が販売されている(NESS L300 $6,000)。これを用いて多自由度の筋協調運動支援を行い、提案手法の有効性を実証する。評価方法としては、短下肢装具(研究室所有)、下肢装具ロボット(研究室にて開発)、FES歩行支援装置Bioness(設備費で購入)、多チャンネルFES歩行支援装置(本課題で開発)を用いて運動計測を行い、それぞれの支援効果の比較を行う。 FESを用いた運動学習の効果を検証するために、リズミックな両腕協調タスクを取り上げる。このようなタスクに対し、片方の腕に電気刺激を入力し、異なるリズムで腕を駆動するための適切な筋活動パターンを教示する。FESを用いた運動支援の効果を実証するとともに、最終的にはFESの支援なしで動作を実現できるようにするための運動支援戦略を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には、運動支援効果を力学的に評価するため、ウェアラブルフォースプレートや圧力センサーなどを購入する。また、運動計測や筋電計測などの各センサーの出力値を時間的に同期して評価することが重要となったため、無線タイプの信号同期ユニットを購入する。 多チャンネルFES運動支援装置を開発するため、機械部品費、工作費、電子回路部品費を用いる。運動・筋電・力学計測を行うためには各計測機の消耗品が必要であるため、これらの消耗品も購入する。シミュレーションや運動データの解析、運動支援装置の構築のため、PC関連消耗品も購入する。 運動支援効果を比較するため、FES歩行支援装置 Bioness 社 NESS L300 の購入を検討する。本装置の改造により、本研究で提案する運動支援方法が実装可能かどうかを検討し、実装可能であれば両脚用に2つ購入することを検討する。 得られた成果は、国内会議、国際会議、国際学術雑誌等で世界的に情報発信するため、旅費や論文掲載費を使用する。
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