研究課題/領域番号 |
24656190
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
村田 卓也 山口大学, 理工学研究科, 助教 (70263796)
|
キーワード | パワー半導体モジュール / 水素チャージ・ディスチャージ / 表面処理 / 接合条件 / 熱応力緩和 / 塑性変形 |
研究概要 |
パワー半導体構造に基き、サブミクロンスケール以下の傾斜接合層の実現を想定してSiCウェハ-Al金属-AlNセラミックス間の接合実験を行って接合性を評価するとともに、該接合体の耐熱性をその場で評価する為に、使用熱環境下における電気インピーダンスによる接合体評価の準備を進めた。並行して、パワー半導体モジュールの耐熱性確保の基本となる金属-AlNセラミックス間の接合試験を行い、接合機構に関する知見を得ることを目的とした物性評価も進めたところ、以下に示す成果を得た。結果の一部は学会報告した。 (1) 接合性と接続性においてAl金属の水素チャージの有効性を確認した。具体的には、接合材としたAl金属の水素チャージにより、サブミクロンスケールでジグザグに組付く形の接合界面微構造を得た。当初想定した傾斜接合層とは異なるが、該微構造に隙間やクラック等はなく、熱伝導に好適と思われる。並行して調査したAl金属の熱特性は、前年度水素吸蔵性に優れるTiについて行った特性評価から想起した「水素チャージの有無による接合性の違いは、水素チャージ(吸蔵)と接合条件下でのディスチャージ(放出)に伴うものと思われる、接合材表面の分子吸着性と極表面(ナノスケール)の塑性変形性の違いに起因する元素相互拡散状況変化に依る」という考えを裏付けた。具体的には、吸着水分子による金属表面酸化層の形成を抑制するとともに、再結晶に伴う塑性変形性に影響を与えるものと考察した。 (2) SiC-Al金属-AlNセラミックス接合体を作製し、大気中、300℃までの熱環境下で電気インピーダンスを測定する準備を整えた。予備的に行った結果から、水素チャージしたAl金属を用いて作製した接合体の同特性が、水素チャージしていない金属部材を用いて作製したそれと比較して、同熱環境下において極めて安定であることを見出している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電極として実際のモジュールにも使用されている軟金属Alを選定することで、当初予定したパワー半導体モジュール構成の根幹となるSiCウェハ-金属電極-AlNセラミックス接合体を作製し、接合界面の微構造観察から、金属への水素チャージの異種部材間の接合性と接続性における優位性を確認した。併せて、条件変化して作製したAl金属-AlNセラミックス接合体の接合界面の微構造と、水素チャージした該金属の熱特性が、前年度、水素吸蔵性が確実なTi金属を用いて得られた結果と同様な特徴を示したことから、接合機構に関する考察を進めることができた。実用の観点からも、Al接合材の選択とその水素チャージ処理の妥当性を示唆したものと考えている。また、接合体の耐熱性のその場測定として構想中の「熱環境下における電気インピーダンス測定」についても準備を進め、次年度の実質的評価に入る準備と予備実験を終了している。ただし、接合体の接合界面の微構造観察の結果は、単純モデルに基いた有限要素法による熱応力分布の数値解析が極めて困難であろうことを示しており、引き続きの課題である。また、当初から予定していた通電による局所加熱を用いた接合体作製の可能性検討についても別途進める必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
以下に示す方針で実験的検討を中心に進め、研究をとりまとめる。 (1) 前年度までに選定した接合材金属と水素チャージ条件、接合条件を用いてパワー半導体モジュール構造の基本となる接合体を作製し、大気中、300℃を想定した耐熱試験を行う。電気インピーダンス法によるその場測定を進めるとともに、該特性に変動が見られた場合を中心として、接合界面の微構造観察を行う。並行して、Al金属-AlNセラミックス接合体の作製条件の内、元素拡散特性に大きく影響を与えるものと思われる接合時間等の因子についても評価・検討を進め、水素チャージした該金属部材の熱特性との比較から、(2)に示す接合機構モデルの構築を試みる。 (2) 接合界面の微構造観察と水素チャージした金属の熱特性の結果から、異種部材間の圧着(拡散)接合に対する水素チャージの効果は、金属表面の酸化被膜の除去及び還元雰囲気の導入と、昇温に伴う主には金属部材表面の塑性変形性を変化しているものと考えている。接合材金属の水素チャージ処理は、一般的な拡散接合が支配される接合温度と接合時間条件を水素チャージによって低減するだけでなく、熱伝導・電気伝導の観点から不利な要素となる酸化被膜形成を非真空雰囲気において抑制するといった効果を示す結果を得ているが、生産性の観点からは接合時間は短いに越したことはない。本手法では、接合界面となる部材表面近傍の局所的な温度上昇に伴う水素脱離の効果が得られれば良いので、接合材を中心とした通電過熱を試みる。これにより、非真空雰囲気下における複数個モジュールの一括作製について指針が得られるものと考える。 (3) 過年度と当該年度に得られた結果を踏まえて、研究を取りまとめる。具体的には、耐熱性を担保する可能性を持ったパワー半導体モジュール基本構造の非真空環境における作製方法・条件と、その根拠の提示を目標とする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
接合装置を含む接合実験関連の各部材と接合装置の精密加圧部のメインテナンス等に想定した程に経費を必要としなかった為、接合体の耐熱性の電気的特性によるその場測定のための各部材購入を中心に予算を使用した。また、一定水準以上の成果が得られた為、成果発表用の旅費にも使用した。最終的な条件提示においては水素チャージ条件についても厳密を期する必要があると考え、関連する機器購入にも使用したところ、数万円の予算を残すところとなった。 前年度までの結果を受けて、より熱応力の生じない部材構成と思われる、パワー半導体SiC/Al金属電極/良熱伝導性AlNセラミックス接合体の作製条件の選定を進めるとともに、電気インピーダンス法を用いた接合体の耐熱性評価について一定基準を提案することを目標に、実験的な検討を中心に研究を進めていく。従って、前年度に引き続き、接合実験関連の消耗品と電気炉関連の消耗品やPtを中心とした電極材料等、接合体の耐熱性評価を想定した電気的測定の為の部材等の購入が必要である。必要に応じて、機器メインテナンスも行う。加えて、接合体の力学的特性評価や、水素の着脱による金属表面の物性変化に関する検討をさらに進める為に、各種測定(強度試験、昇温ガス脱離分析、熱膨張測定、走査電顕観察等)を行う予定であり、必要に応じて外部に分析依頼する。なお、成果報告と情報収集、有限要素法に関する打合せ等に旅費等を使用する予定である。
|