研究課題/領域番号 |
24656190
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
村田 卓也 山口大学, 理工学研究科, 助教 (70263796)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | パワー半導体モジュール / 水素チャージ・ディスチャージ / 表面処理 / 接合条件 / 熱応力緩和 / 塑性変形 / 電気インピーダンス |
研究実績の概要 |
実験的検討を中心に進めた結果を以下にまとめる。結果の一部は学会報告した。 1.前年度までに選定した接合材金属と水素チャージ条件を用いて、パワー半導体モジュール構造の基本となる接合体を各接合条件下で複数個作成し、大気中、300℃で耐熱試験を行った。電気インピーダンス法によるその場測定を行ったところ、同条件下で接合材の水素チャージの有無による明確な差異は認められなかった。並行して行ったAl金属-AlNセラミックス接合体の作製条件の内、元素拡散性に大きく影響を与える接合時間を変化したところ、サブミクロンスケールでジグザグに組み付く形の接合界面微構造の形成程度との連関を見出した。 2.接合時間を変化して作製したAl金属-AlNセラミックス接合体の微構造観察と水素チャージした金属の熱分析の見直し等により、昇温時の還元雰囲気の導入が金属部材表面の吸着水の低減によるものであり、一定水準で表面研磨したセラミックス部材に対しては、設定した金属部材の再結晶点を上回る接合温度において、水素チャージ無の場合でも接合性に影響を与えるであろうことを確認した。すなわち、水素チャージの効果は比較的低温において発現されるであろうと考察した。接合時間が長じれば、接合界面に残留した金属酸化物と拡散に伴う金属間化合物の形成により、硬くて脆い接合層を形成するものと議論した。また、生産性の観点から通電過熱を試みたが、通電の為の治具設定だけでなく、その条件選定に再検討の必要があると考えている。 3.耐熱性を担保するパワー半導体モジュール基本構造の非真空雰囲気環境における作製方法・条件と、その根拠の提示を目標として研究を取りまとめる予定であったが、特に、SiC-金属-AlNセラミックス接合体の接合界面微構造観察の為の試料研磨条件の策定に苦慮したことから、研究期間の延長を申請し、許可を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電極として軟金属Alを選定し、パワー半導体モジュール構成の基本となるSiCウェハ-金属電極-AlNセラミックス接合体を各条件において複数個作製した。接合界面の微構造観察の準備を進めるとともに、電気インピーダンス法による接合界面のその場測定を行った。併せて、拡散接合において重要因子となる接合時間を変化して作製したAl金属-AlNセラミックス接合体の接合界面微構造を観察するとともに、水素チャージした該金属の熱特性を再度見直し、一部追加試験を行うことで、接合機構における水素チャージとそのディスチャージが、接合界面となる金属部材表面に還元雰囲気をもたらす主たる要因として水及び関連する金属酸化因子の低減に寄与していること、さらには、金属再結晶に基く部材バルクの状態変化により、金属内部からも加工によって導入された水素が放出されることで、接合条件(温度と圧力)に依存した変形程度を生じるであろうと議論を進めた。ただし、熱環境下における接合体の電気インピーダンス評価については、与えた熱環境(大気中、300℃×120h)が不十分だったせいか水素チャージに伴う明確な差異を見出しておらず、より過酷な熱環境下における特性把握、あるいは昇温下接合時の特性測定といった極端な条件設定が有効であろうと考察した。加えて、有限要素法による熱応力分布の数値解析が極めて困難であることと、通電による局所加熱方法についてはさらに準備が必要であろうことを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
過年度と当該年度に得られた結果を踏まえ、以下に示す方針で実験的検討を中心に進め、研究をとりまとめる。具体的には、耐熱性を担保する可能性を持ったパワー半導体モジュール基本構造の非真空環境における作製方法・条件と、その根拠の提示を目標とする。 1.前年度までに選定した接合材金属と水素チャージ条件、接合条件を用いてパワー半導体モジュール構造の基本となる接合体を作製し、大気中、300℃以上で耐熱試験を行う。電気インピーダンス法によるその場測定を進めるとともに、該特性に変動が見られた場合を中心として、接合界面の微構造観察を行う。並行して、Al金属-AlNセラミックス接合体の作製条件の内、本接合法の特徴である水素チャージ条件を変化して接合体を作製して評価を進め、水素チャージした金属部材の熱特性との比較から、2に示す接合モデルの構築を試みる。 2.異種部材間の拡散接合に対する水素チャージの効果は、金属表面の酸化被膜の除去と還元雰囲気の導入に加えて、金属部材表面の変形性の付与と考えている。接合材金属の水素チャージ処理は、一般的な拡散接合が支配される接合温度と接合時間条件を水素チャージによって低減するだけでなく、熱伝導・電気伝導の観点から不利な要素となる酸化被膜形成を非真空雰囲気において抑制するといった効果を示す結果を得ており、今後水素チャージ条件を変化した際の同特性を調査することで、1の結果と合わせて、還元雰囲気と変形性を含む表面状況の関連性を明らかにしていき、接合に対する水素の着脱効果を核とする接合モデルの構築を試みる予定である。なお、接合材を中心とした局所過熱の可能性について検討を進める為に、水素チャージした接合材金属の熱特性の測定等も進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
主には、接合装置の調整(ロードセルの交換、加圧制御盤の再調整等)とAlNセラミックス板の研削仕上げ加工費に使用した。また、一定基準以上の成果が得られた為、成果発表用の旅費にも使用した。最終的な接合条件や、この基礎となる接合機構モデル提示の為に、主には接合界面微構造観察の為の試料加工用消耗品と機器使用費として、数万円の予算を残すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度までの結果を受けて、より熱応力の生じない部材構成と思われる、パワー半導体SiC/Al金属電極/良熱伝導性AlNセラミックス接合体の作製条件を絞り込む為、接合界面の微構造観察を進めるとともに、電気インピーダンス法を用いた接合体の耐熱性評価について一定条件を提案することを目標に、実験的な検討を進めていく予定である。従って、前者では、期間延期の理由として挙げた接合体接合界面の微構造観察用の研削・研磨に関連する消耗品や最終仕上げ(イオンミリング処理、外部機関開放機器利用)に使用する。併せて、水素チャージ条件を変化して作製したAl金属-AlNセラミックス接合体の接合界面微構造観察用試料の調整にも使用する。また、接合体の力学的特性や接合材金属の表面物性に関する各種測定(主には、学内共同利用機器利用)にも使用の予定である。
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