研究実績の概要 |
本研究は省エネに優れたインバータ駆動モータの高性能化が目的であり、そのためのナノコンポジットエナメル線の耐サージ特性について調べている。本年度は放射光を用いたナノフイラーの分散特性の計測と課電劣化試験中における部分放電開始電圧、放電空間における電界強度の計測を実施した。エナメル線の被膜中のナノ粒子の分散状態はナノコンポジット材料の誘電・表面特性を決定する上で重要な役割を果たしている。本年度はその絶縁皮膜中のナノ粒子の分散特性を高精度に測定するために、大型放射光施設の兵庫県ビームラインBL08B2を用いて、小角散乱(SAXS)測定を実施した。電線メーカーから提供を受けたナノコンポジット線のシリカの充填率(0, 0.5, 10, 28, 30, 35 phr)を変化させて、その分散状態の変化を調べた。フィラーの粒子サイズが17 nmと分析され、粒子間距離が72.8 nmの充填率10 phrの分散特性が最も良好であることがわかった。28phr以上になると、フィラーの粒子間距離が小さく、詰まりすぎている様子がみられた。しかし、充填率に変化に対する粒子間距離の変化を明確にするためには再度計測をする必要がある。 V-t課電劣化試験における部分放電特性について下記の二つの実験を行ったので、その結果を下記に示す。1)V-t課電試験によって、部分放電開始電圧(PDIV)は耐サージ線1時間、汎用線5分の課電後に急激に減少する。その後はほぼ一定または緩やかに減少する。2)印加電圧が大きいほどPDIVの減少が大きい。 3)PDIVの低下は放電による絶縁被覆の減少が起因している。4)V-t課電試験によって、換算電界強度は耐サージ線1時間はわずかに減少するが、汎用線は変化しない。5)印加電圧と周波数が大きくなると、放電空間へのエネルギー入力が増大し、電子のエネルギーが増大する。そのため、放電空間の実効的な抵抗が減少し、分光電界強度が低下すると考えられる。
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