研究課題/領域番号 |
24656205
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野田 啓 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30372569)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 有機トランジスタ / 分子ドーピング / キャリア濃度 / デバイスシミュレーション |
研究概要 |
有機電界効果トランジスタ(OFET)に対して、従来の「キャリア移動度」や「有機半導体/金属界面」の制御ではなく、「キャリア濃度」制御という新しい視点でのデバイス研究開発を実施した。まず、ボトムゲート・ボトムコンタクト(BGBC)型OFETのコンタクト電極領域における分子ドーピングによってドレイン電流が増加する現象について、デバイスシミュレーションに基づき、キャリア濃度・ポテンシャル・電流分布を詳細に計算し議論を行った。その結果、高濃度ドープ層からOFETのチャネル部へキャリアが供給されることでドレイン電流の増加につながることが示され、研究代表者が以前に見出していた諸現象の起源についての理解を深めることができた。また、異なる有機半導体材料を用いたBGBC型OFETに対してコンタクト領域へのドーピングによるドレイン電流増加を、実験的に確認するに至った。これらの成果により、高濃度キャリア半導体層の導入によって、OFETの最高性能を引き出す汎用的な素子構造・プロセスの決定手法を確立するための重要な指針が得られた。 更に、コンタクト領域へのドーピング効果を、原子間力顕微鏡によるOFETチャネル上の表面電位観察によって追跡する実験に着手した。 また、有機トランジスタのゲート絶縁膜表面修飾に用いられる高分子絶縁バッファ層に対して分子ドーピングを行う手法を開発し、本手法でデバイスのしきい値電圧制御が可能である事を示すと共に、導入されたドーパントが伝導キャリアに対して与える影響(キャリアドーピングやキャリアトラップ効果)について電気化学的な視点で評価を行った。 以上のように、分子ドーピングを積極的に活用した新しいOFET素子構造を提案し、分子ドーピングがデバイス特性制御において極めて有効な手段であることを理論・及び実験の両面から実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、平成24年度はOFETデバイスにおける有機半導体のキャリア制御に関する指針を得るための理論・実験研究が主な課題であった。実際にミクロンスケールのチャネル長を有する OFET に対して、高キャリア濃度層の挿入位置とデバイス特性との相関性を実験と理論の両面から明らかにできた点、また、分子ドープされたゲート絶縁バッファ層を有する OFET 素子に対して、電界効果移動度・しきい値電圧の変化を詳細に調べ、電気化学的視点からのキャリアドーピング及びキャリアトラップに関する理解を深めることができた点については、概ね研究計画に沿った成果であると言える。また、平成25年度に行う予定であった原子間力顕微鏡を用いた OFET チャネル上での表面電位観察については、既に前倒しで実験に着手している。これらの事由により、本研究課題は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に得られた成果の適用範囲を拡大すべく、チャネル長が μmからサブミクロンオーダーの短チャネル有機トランジスタに対して高キャリア濃度層の導入を実施する。各種リソグラフィー技術によりソース・ドレイン電極チップを形成した後、その上に高キャリア濃度層を有する OFET 素子を作製し、コンタクト抵抗、ショットキー障壁を介したキャリア注入、短チャネル効果などの OFET 特有の現象を追跡すると共に、高キャリア濃度層の位置、キャリア濃度及びその他のデバイスパラメータの違いが短チャネル FET のデバイス特性に与える影響を明確にする。 また、原子間力顕微鏡を用いた試料表面形状像と表面電位/ドーパント濃度像の同時観察により、OFET デバイスの動作時において、チャネル直上及びその周辺部の表面電位やキャリア濃度の2次元マッピングを行う。実験結果とデバイスシミュレーションで得られる OFET 素子内部の電位/ドーパント濃度分布との比較を行い、チャネル内に存在する有機半導体分子間や分子内でのキャリア移動、チャネル内での局所不純物ドーピングの影響など OFET の動作機構の解明につながる知見を得る。本測定で得られる結果をデバイス作製プロセスにフィードバックさせ、デバイスシミュレーションを通じて OFET 素子構造の更なる最適化を図る。 最後に、様々なチャネル長、キャリア濃度、酸化膜厚を有する OFET に対する実験結果を集約することで、「有機半導体におけるキャリア濃度制御とシミュレーションにより最適化したデバイス構造を用いることにより、OFET の微細化に対してもデバイス性能を維持できる」ことを示すと共に、短チャネル効果を防ぐためのスケーリング則の確立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は当初の支出予定よりも少ない金額で研究を推進することができた半面、平成25年度は研究計画に沿った成果を挙げる上で当初予定よりも支出が多くなる見込みとなった。まず、OFETの電気特性評価系を充実させるため、微小電流メータを購入する予定である。消耗品費としては、OFET 素子作製に必要な試薬類、真空機器メンテナンス用の部品、電極パターン作製用のフォトマスク、金属マスクと各種レジスト類、原子間力顕微鏡測定用カンチレバーなど、頻繁に使用される物品を、研究計画に合わせて適切な時期に購入できるように配慮した。旅費については、国内及び国外での各学会で1、2回の発表を行う予定で、その費用を考慮した。外国旅費については、アメリカまたはヨーロッパで開催される学会に一度、参加する際に必要な渡航費と滞在費を概算している。また、研究の進行状況によって、他の研究グループの研究者または技術者による実験の補助を必要とする場合を想定して、研究補助費(謝金)を計上している。最後に、本研究計画で得られる成果を発表する際の学会参加費や論文投稿料については、その他の費用項目で計上した。
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