研究課題/領域番号 |
24656207
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
川山 巌 大阪大学, レーザーエネルギー学研究センタ, 准教授 (10332264)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | テラヘルツ / 磁性体 |
研究概要 |
本研究の目的は、フェムト秒パルスレーザー照射による局所磁化の高速変調によるテラヘルツ放射をプローブとして酸化物磁性体のドメイン構造のイメージングを行い、磁気ドメインのフェムト秒スケールのダイナミクスを可視化する技術を確立することである。このような技術は、磁性体ドメインの空間的・時間的な新たな評価法として有用なだけでなく、少数フォトンによるスピンの雪崩的・集団的な変調を実現しマクロな磁化を制御する新たな光制御スピントロニクスデバイスに展開で可能であると考えている。これらの実現は新しい工学分野“強磁性フォトニクス”の創成と強磁性フォトニックデバイス応用につながるものである。 本年度はCE型反強磁性体であるMn系酸化物Pr0.5Sr0.5MnO3(PSMO)薄膜を作製し、まずそのテラヘルツ帯における伝導度をテラヘルツ時間領域分光法で計測した。PCMO(110)薄膜をLSAT(110)基板上にレーザーアブレーション法を用いて作成した。試料をクライオスタットに設置し、テラヘルツ時間領域分光を行い、透過スペクトルの温度変化を計測した。このとき、さらにテラヘルツ波の偏光面が[1-10]方向に対して0度、45度、90度の方向の時のスペクトルを測定し、それぞれ比較した。 その結果、偏光方向が[1-10]方向の時の光学伝導度は、通常の金属と同様Drude的なスペクトルが特に100K以下の低温領域で顕著に見られたが、90度傾けた[001]方向の時は、約4meV程度にピークのある、非Drude的な振る舞いが見られた。これは、同一薄膜内において、金属的な伝導から絶縁体的な伝導へのクロスオーバーが起こっている事を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テラヘルツ波をプローブとした磁気ドメインを観測するに先立ち、PSCO薄膜の光学伝導を計測した。このときテラヘルツ波の偏光面が[1-10]方向に対して0度、45度、90度の方向に変化させると、偏光方向が[1-10]方向の時の光学伝導度は、通常の金属と同様Drude的なスペクトルが特に100K以下の低温領域で顕著に見られたが、90度傾けた[001]方向の時は、約4meV程度にピークのある、非Drude的な振る舞いが見られた。これは電子の伝導形態が伝導方向により大きな異方性を持っており、[001]方向では電荷整列型の絶縁体となっていることが示唆される。このように、一つの物質の中での伝導形態がドルーデ型から電荷整列タイプの絶縁体となることは、大変興味深い。本年度はイメージングまで波行うことは出来なかったが、これは申請書の計画通りであり、初年度は試料の特性を詳細に計測することが出来、次年度に繋がる成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、反射型のテラヘルツ放射イメージングシステムを構築し、磁性薄膜からのテラヘルツ放射を観測・イメージングを行うことを計画している。すでに、ガルバノミラーを組み込んだ放射計測システムの構築は完了しており、その分解能などを検証中である。この技術はイメージングに移動ステージを使用する必要が無く、試料周りをコンパクトにすることが出来るため、本研究のように、試料を低温かつ磁場下でイメージングする場合に有用な手法である。レーザーのスポット径は本システムにおいては数μm~10μm程度であるため、ナノメートルオーダーの磁気ドメインの観察は困難であるが、磁場印可によるドメイン反転の様子や、光アシストによる磁気分極反転効果の検証などが可能となると考えている。スポット径に関しても将来的には近接場を用いた検出法により、空間分解能を100nm程度まで向上させることが可能であると考える また、PCMO以外の試料として近年注目を集めているダブルペロブスカイト構造をもち、150K付近で転移する強磁性絶縁体であるBNMOの薄膜化を行い、それぞれの磁気ドメインの形成過程およびフェムト秒パルス照射に対する応答特性を比較する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当無し
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