研究課題/領域番号 |
24656208
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
冨士田 誠之 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (40432364)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | フォトニック結晶 / テラヘルツ波 / 電磁波吸収体 |
研究概要 |
電磁波を吸収する電磁波吸収体は,無線LAN等の通信障害対策,レーダ対策,電波暗室用途,携帯電話等電子機器内のノイズ対策等において,幅広く利用されている電磁波の利用には不可欠な電子材料である.電波と光波の境界領域の周波数にあたるテラヘルツ波は,その発生・検出が困難であったため,極最近まで未開の電磁波であった.しかし,その高周波特性を活かした超高速無線通信や物質固有の吸収スペクトルの検知・適度な透過性を利用したセンサ・イメージングなどの研究が進行しており,様々な応用へ向けてコンパクトなテラヘルツ波吸収体の実現が大いに期待されている.本研究では,研究代表者が世界に先駆けて実証してきた微細構造フォトニック結晶による発光制御法を応用し,フォトニック結晶を用いたテラヘルツ波吸収体を実現することを目的としている.本研究の目的であるフォトニック結晶テラヘルツ波吸収体の実現へ向けて,1.フォトニック結晶によるテラヘルツ波の捕獲,2.テラヘルツ波とフォトニック結晶との相互作用による吸収,というプロセスが必要である.そこでまずは,テラヘルツ波を捕獲可能なフォトニック結晶の設計を行った.フォトニック結晶材料としては,加工の容易さ,将来の電子デバイスとの集積化および,キャリア密度により吸収係数を変化させることができるという点からシリコンを選択した.シリコンへフォトニック結晶となる周期構造が形成されたモデルに対し,有限時間差分領域法を用いて,テラヘルツ波に対するフォトニック結晶の透過・反射特性と時間応答特性を解析した結果,テラヘルツ波の捕獲の様子が確認できた.そして,実際にシリコンを加工することでサンプルを作製し,時間領域テラヘルツ分光法によって,理論と対応した実験結果が得られ,シリコン中のキャリア密度を変化させることで相互作用による吸収に起因する捕獲寿命の短縮と吸収率増大が観察できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度はフォトニック結晶を用いたテラヘルツ波吸収体の実現に向けたフォトニック結晶によるテラヘルツ波の捕獲現象の検証を主な目的としていた.フォトニックバンド端効果をもつフォトニック結晶を設計の上,電磁界解析を行い,テラヘルツ波に対するフォトニック結晶の透過・反射特性と時間応答特性を解析した結果,透過・反射スペクトルでの特定周波数において共振ピークをもつ特性および,周波数特性の時間発展を視覚化できるスペクトログラムを用いる独自の手法によって,フォトニック結晶外部から到来するテラヘルツ波がフォトニック結晶内部において,たしかに捕獲される様子が確認できた.さらに,理論検討とシミュレーションだけではなく,実際にシリコン基板を加工することでサンプルを作製することもできた.そして,テラヘルツ時間領域分光法によって,サンプルのテラヘルツ波に対する時間応答を測定し,実験的にもスペクトログラムを作成することで,理論とよく一致するテラヘルツ波捕獲の様子を確認することができた.さらには,シリコンへキャリアをドーピングすることで,フォトニック結晶内部に捕獲されたテラヘルツ波と自由キャリア吸収効果を相互作用させることが可能になった.その結果,波長のわずか五分の一程度の薄膜構造においてもテラヘルツ波の吸収効果が生じ,テラヘルツ波の捕獲寿命が短縮されるという本研究で目指す薄膜テラヘルツ波吸収体の実現に向けて重要な現象までをシミュレーション・実験共に観察することができた.以上の研究により,当初の予定を上回る成果を得ることができたため,当初の計画以上に本研究は進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的であるフォトニック結晶テラヘルツ波吸収体の実現へ向けて,1.フォトニック結晶によるテラヘルツ波の捕獲,2.テラヘルツ波とフォトニック結晶との相互作用による吸収,という,プロセスが必要である.前述の研究実績の概要にも記載したように,本年度の段階で,1.に関する,基本的な理論検討,設計およびその実証を行うことができた.2.に関しても,理論解析と基礎実験を行うことができた.そこで,本年度の結果を受け,フォトニック結晶を形成するシリコンへ吸収効果を導入した場合の理論解析に関して,シリコンのキャリア密度を様々に変化させた際の,透過・反射・吸収スペクトルの系統的な解析を厳密結合波理論および時間領域差分電磁界解析法によって行い,フォトニック結晶テラヘルツ波吸収体として,最適なシリコン中のキャリア密度の条件を見いだすことを目指す.得られたキャリア密度に相当するシリコンの抵抗率を自由キャリアの振動子モデルから算出し,その抵抗値に対応するシリコンウエハを準備し,設計したサンプルの試作を行う.そして,前年度同様に作製したサンプルの透過率,反射率の測定をテラヘルツ波時間領域分光法で行うことで,フォトニック結晶テラヘルツ波吸収体の実証を行う.また,フォトニック結晶の格子点形状,孔径の大きさ,深さおよびシリコンの厚さを変化させ,一層高い吸収率および広い帯域をもつテラヘルツ波吸収体の実現を目指していく.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究費の残額は,本年度交付研究費総額のわずか0.1%であり,ほとんど誤差の範囲で当初の予定通りに執行をすることができている.わずかな額ではあるが,本年度に該当する研究費を繰り越し,次年度に消耗品等に使用することで,当初の計画以上に進展している本研究をより強力に推進することができると考えている.
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