研究概要 |
塗布型薄膜トランジスタの実用には5 μm程度の短チャネル長で移動度が1 cm^2/Vsを超える素子特性が必要となる。しかし、実用上重要となるこの指標が実現できていない。本研究では、MoO_3ナノ粒子を添加することにより有機半導体の結晶性の向上(チャネル移動度の上昇、チャネル抵抗の減少)、有機半導体/ソース・ドレイン電極間の接触抵抗の低減(MoO_3と有機半導体との電荷移動を利用)を実現することにより高移動度、短チャネル薄膜トランジスタを実証することを目的とした。 MoO_3ナノ粒子をMoO_3粉末のエチルアルコール溶液の上澄み液から分離し、MoO_3ナノ粒子と有機半導体 2,7-dioctyl[1]benzothieno[3,2-b][1]benzothiophene (C8-BTBT)による有機・無機ハイブリッド半導体による薄膜トランジスタを作製、評価した。MoO_3ナノ粒子添加による正孔注入障壁の低下は殆どなく、OFF電流値も大きく変化していなかった。一方、光学顕微鏡観察による観察によると、当初の予想どおり、C8-BTBT微結晶サイズは小さくなりかつ均一であった。電界効果移動度は、わずかに低下し、閾値が-15 Vまで増大した。 このため、研究協力者の日本化薬と共同で高分子分散C8-BTBTを開発し、C8-BTBTの一層の結晶性の向上を狙った。薄膜トランジスタを作製、評価したところ、線形領域においてチャネル長5 μmで、最高で1.57 cm^2/Vsの電界効果移動度を得た。この値は、世界最高水準の値であり、本研究で掲げた数値目標を達成できた。 この他、ソース・ドレイン電極を基板内に埋め込み、有機半導体層の平坦化を実現したプロセス開発に成功した。埋め込み電極を有するトップゲート構造のC8-BTBT薄膜トランジスタにより、数Vの低駆動電圧を実現した。さらに、数ナノメータのMoO_3蒸着層をソース・ドレイン電極上に設けることによりチャネル長5 μmで、最高で0.4 cm^2/Vsの電界効果移動度を得た。
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