研究課題/領域番号 |
24656216
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
菊池 昭彦 上智大学, 理工学部, 准教授 (90266073)
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キーワード | 半導体成膜 / 静電塗布 / ナノミスト / 発光ダイオード / 太陽電池 / 低分子 / 高分子 / ディスポーザブル |
研究概要 |
本研究は、有機半導体や無機半導体、金属ナノ粒子など様々な材料に適用可能な成膜法であるナノミスト堆積(Nano Mist Deposition: NMD)法の開発および、新しいカテゴリの光デバイスであるディスポーザブル光機能(発光/光発電)シートの試作検証を行い、社会への学術・産業的貢献を目指すものである。本年度は、装置を用いた無機/有機ハイブリッドLEDの試作、低分子有機材料の成膜特性評価、無機MgZnO系材料の成膜特性評価を行った。 ①NMD法を用いて、緑色発光性高分子であるF8BTの成膜特性を評価し、溶液供給速度依存性や噴霧距離依存性を最適化した条件において表面粗さRMS値0.56nmを得た。同条件でF8BT層を成膜したMoO3/F8BT/ZnO系LEDは、スピンコートでF8BT層を成膜した場合と遜色ない特性を示した。 ②NMD法による低分子有機構造の形成に向け、NPB膜上へのAlq3の成膜特性を評価し、下地層の浸食とその制御に関する知見を得た。 ③NMD法によるMgZnO無機酸化物の成膜特性を評価し、基板温度の増加に伴う成膜面の状態の改善と低温成膜によるワイドギャップ化(アモルファス化)等の知見を得た。 ④無機/有機ハイブリッドLEDにおける多重電荷注入層の導入効果の検証を行い、自己配列双極子分子(SADM)やMgZnO中間層が電子注入効率の向上に効果的であることを実証した。 ⑤Inを含まない透明導電膜として期待される金属/誘電体多層構造(MDM)である3層のAg層を含むAg/ZnO系MDMを設計・作製し、高い可視域透過性(89.1%)と電気伝導性(12.2Ω/sq)(室温成膜、熱処理無し)を有することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノミスト堆積(NMD)装置を用いた成膜対象を、有機高分子(F8BT)、有機低分子(NPB、Alq3)、無機酸化物(MgZnO)に拡張し、それぞれにおける基礎的な成膜条件を把握するに至った。いずれの材料においても成膜条件の最適化により表面粗さRMSが数nm程度に低減可能であり、汎用性の高い溶液成膜法として期待できることが確認された。溶液供給速度の低速化は液滴サイズの微細化と粒径分布の狭化に有効であり、ノズル-基板間距離の調整は膜の乾燥状態の制御に有効であることが確認された。また、高誘電率の添加溶媒の添加効果についても検討を行った。特に、低分子膜の積層化に向けた下地の溶解特性に関する知見が得られたことは今後の研究における重要な進捗である。本年度は、NMD法による各種材料の成膜特性の把握に注力し、フレキシブル基板への適用は最終年度の課題とした。本年度の研究成果は、国内・国際学会での発表、および英語学術論文誌での掲載として公表された。 以上の実績をもって、計画は順調に進展したと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの2年間の研究によってナノミスト(NMD)法による有機薄膜の成膜特性に関する有用な知見が得られたので、これをもとにナノミスト堆積装置の改良を行う。特に、噴霧する液滴の微細化が均質で平坦な成膜に有効であると考えられることから、ノズル形状の工夫を行う。また、基板温度制御、雰囲気制御性、帯電液滴の堆積領域制御、多層構造の成膜用に複数のシリンジを装荷したマルチソース型NMD装置の製作も検討する。 NMD法による無機材料や金属微粒子の成膜特性についての検証を進め、NMD法の特徴を明らかにする。最終段階では、NMD法によるディスポーザブル基板(CNT複合シート等)への有機薄膜の成膜特性を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ナノミスト堆積装置の作製において、既存部材を流用することにより経費を大幅に削減することができたため本年度の予算に余裕が生じた。最終年度は実験装置の大幅な改造と新規製作を予定している。当初の配分予算が少なかったので、この余裕分を繰り越すことが効率的であると判断した。 消耗品として、NMD装置の改良および新規作製のための電気・機械部品類、新型ノズル等を購入する。成膜実験用に各種基板材(石英基板、ITOコートガラス、石英ガラス、n-GaNテンプレート、PETシート、ITOコートPETシート、CNT複合シートなど)、成膜原料(各種有機半導体原料、各種無機半導体原料、金属微粒子など)、各種有機溶媒、シリンジ等実験機材、雰囲気制御用窒素ガス等を購入する。消耗品はこれまでの実績と研究計画に基づいて800,000円を予算として計上する。また、 成果発表および最新の研究動向調査のための国内学会および国際会議への参加に関する旅費を約600,000円、論文誌への投稿費用、資料印刷などの費用として、約200,000円を予定している。
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