最近急速に進歩し、測定の信頼性が増して来たテラヘルツ(THz)域を含む超低周波交流から紫外という超広帯域に亘り、複素誘電率および光吸収スペクトルを計測し解析することにより、有機高分子絶縁材料の誘電・絶縁挙動を統一的に理解するとともに、電気電子機器における最も重要な絶縁材料である電気絶縁材料の非破壊絶縁劣化診断手法の開発を目指した。 25年度は、第1に、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、シンジオタクチックポリスチレンについて、mHz~GHzの広域帯で誘電特性を評価した。得たスペクトルと他の物性値との比較や文献の参照を通して、試料間での誘電特性の周波数や温度依存性の差異の原因を論じた。さらに、ポリエチレン等では、温度依存性から熱膨張率が算出できることを示した。これらについては、2つの査読付論文を投稿中である。第2番目に注力したTHz分光による絶縁劣化診断については、電力ケーブルの絶縁材料である架橋ポリエチレンとエチレンプロピレンゴムを試料に、熱およびガンマ線照射によって誘起される酸化による吸収スペクトルの変化を、実験と量子化学計算の両面から検討した。その結果、酸化により0.6~3.0 THzに掛けて大きく増大する吸収は、光学的に不活性なモードが、酸化による構造変化により光学活性となって生じる共鳴吸収によるものであることを明らかにした。その他、ポリエチレンのガラス転移点を、THzスペクトルを用いて求めることにも成功した。
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