研究課題/領域番号 |
24656235
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小川 真人 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40177142)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 非平衡グリーン関数 / 第一原理バンド構造計算 / 量子デバイスシミュレーション / スペクトル法 / 擬スペクトル法 / 有限差分法 |
研究概要 |
半導体ナノスケールトランジスタやグラフェントランジスタ,分子動力学法による原子スケールでのデバイス解析やその設計においては量子状態を捉えつつ輸送を計算するために,非平衡グリーン関数などの二階の微分方程式を効率良く解く必要がある. 従来は有限差分法(FDM)や有限要素法(FEM)で最近接格子点の一次の近似を用いて解析が行われてきたが,上述のように10-12μAの領域の電流計算を行う時や大規模計算を行う場合には従来の方法では,精度および計算コストの点で非常に不安があった.これに対してスペクトル法や擬スペクトル法では計算の精度は向上するものの領域間の境界条件の取り入れについては,基底関数(たとえばLagrange関数)が複雑な関数形であるため定式化に困難が伴った.今回,我々は,波動関数の微分とその連続が境界面で自動的に保たれるLagrange基底関数の領域間の結合を考慮したBridge関数を取り入れてナノデバイスシミュレーションにおけるNEGF法とPoisson方程式の結合解法に取り入れた方法を開発し(BPSM:Bridge Function Psuedo-Spectral Method),計算精度および速度に関して同じメッシュ数と計算プラットフォームにおいて7桁以上の精度と,10倍以上の高速化を実現することを可能とした.さらに進行方向のポテンシャル変化を量子力学的な摂動としてとらえる手法(FUMS:Fast Uncoupled Mode Space Method)を開発し,従来のBPSM法(UMS法)と比較して同等の精度を60倍以上の高速解析できる手法であることが示されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に掲げている期間内の研究内容と解明点のうち ・最良基底展開を用いたシミュレータ高速化: TB 近似で原子軌道関数を用いた場合,有効質量近似に比べ大きなデバイスサイズ(>45 nm) では数千~数万原子から構成され,メモリおよびCPU 時間の面で計算が困難であるが,原子軌道の多項式線形結合を基底とした展開法(Y. Saito et al. Proc. SISPAD2011) および再帰Green関数法の複合アルゴリズムと並列計算の援用によりシミュレータの高速化を図る. に関してBPSM法を発案して実際に適用を行うことができたため.
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今後の研究の推進方策 |
今後,昨年度達成した成果をもとに以下の2点につき研究を推進する予定である. (1)新材料の特性を反映した原子論的シミュレーションプログラムの開発 現在のプロトタイプシミュレータをシリコン系技術と化合物半導体との複合構造デバイスにも対応し得る汎用性を持たせるために,任意の結晶系に対する強束縛近似等価ハミルトニアンを第一原理密度汎関数法によるバンド構造計算結果から生成するアルゴリズムを開発する.その結果現在のシリコン系材料に対する原子論的なNEGF 法を,より複雑な半導体材料の特性を反映を行ったデバイス輸送特性解析を可能とする手法として発展させる. (2) 微細デバイス構造中の散乱機構を考慮した非平衡量子輸送デバイスモデリング フォノン散乱,界面ラフネス散乱,不純物散乱,離散的不純物分布がもたらす効果を原子スケールでのNEGF 表式(TB-NEGF) に取り入れ,非平衡量子輸送デバイスシミュレータの構築を行う.それを基にして,新構造・新材料ナノデバイスの性能予測と微細化の限界の予測を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の(1),(2)を達成するために,Workstationとしてメモリを多数(128GB以上)有する性能が必要であると分かったため,予算の範囲内でCPU性能とメモリとの最尤条件を満たすような購入計画を策定している.そのもとで以下を実現する. 1. 超並列化BPSM 解法ルーチンの作成:原子軌道の多項式線形結合を基底とした展開法で,Legendre 多項式,Chebyshev 多項式,Laguerre 多項式展開によるGauss 求積型の近似展開によるBPSM を並列化することによりオーダN=2 法を実現し,精度を2 倍,必要な行列の非零要素数を従来の1/4 以下に軽減する解法ルーチンを構築する. 2. 超並列化Arnoldi / Jacobi-Dabidson 型固有値問題解法ルーチンの作成:DGMOS やFINFET など閉じ込めが強い場合にはさらに,閉じ込めモードを用いることで計算負荷を減らすことが可能であり,現在5000x5000 次元(s,p, s* 原子軌道を持つ1000個の原子)を取り扱うことが可能であるが,固有値計算を並列化することにより取り扱える次数(原子数)を一桁増大し45nm 以上のサイズを持つデバイスの電子状態解析および輸送特性の解析が可能な解法ルーチンを構築する. 3. 超並列高速化グリーン関数ソルバーの作成:BPSM と固有値問題解法を複合し,強束縛近似モデルによる実空間対角表現とモード対角表現の行列表現のうち疎になる表現を自動的に選定するルーチンの開発により,グリーン関数を高速に解くことの出来るアルゴリズムを構築する. 4. グラフィカル・ユーザインタフェース( GUI )プロトタイプの構築:結果の視覚化には国内で広く用いられるためにGNUplot により現在のプログラムを書き直し, クライアント・サーバ型インタフェースによる構成に変更する.
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