研究課題/領域番号 |
24656236
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
味野 道信 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (30222326)
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キーワード | マイクロ波 / マグノン / 非線形励起 / ボーズ凝縮 |
研究概要 |
直径1mmのイットリウム・鉄・ガーネットを9GHz帯の最大電力40Wの大電力マイクロ波により非線形励起し,マグノン系からのマイクロ波放射の研究を引き続き実施した.昨年度は,主として室温での測定を実施していた.本年度は,液体窒素温度及び液体ヘリウム温度での測定を行い,マイクロ波放射機構の解明を目指し研究を進めた.マグノンの励起には,静磁場とマイクロ波磁場を平行に加える平行励起の手法を用いている.この方法では,マイクロ波が最初に励起するマグノンの波数を任意に選ぶことができる.平行励起によるマグノンの不安定化増大が始まる電力Pcの外部磁場依存性はバタフライカーブと呼ばれている.Pcが最小となる磁場では波数がほぼゼロで,外部静磁場に対して垂直方向に進むマグノンが励起される.これより低磁場側になるほど,静磁場と垂直方向に進み波数が大きくなるモードが励起される.一方,高磁場側では波数がほぼゼロのままで,マグノンの進む向きが垂直方向から平行方向へと順次変化する.液体ヘリウム温度4.2Kにおいても,波数がほぼゼロの低磁場側では最初のモードが不安定増大を示した後,放射が観測されるまで700nsec程度の時間が必要で有り,報告されている薄膜とは大きく異なる結果となった.一方,高磁場側で励起した場合,100nsec程度の比較的早い時間で放射が観測されるが,これはボーズ凝縮に関連するマグノンバンド底からの放射ではなく,1/2励起周波数に近い静磁モードからの放射であることが分かった.最初のモードが不安定化増大を起こしてから,放射が観測されるまでの時間には4.2Kと室温の間には,あまり差が無いことも明らかになった.しかしながら,マグノン系の不安定化増大,つまりマグノン系を非平衡状態に励起するために必要な電力は低温の方が小さいため,今後低温でより大電力での励起実験を試みる予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
バルク試料からのマイクロ波放射に関して,マグノン系のボーズ凝縮を直接示唆する実験結果は得られておらず、デバイスの開発には直接つながる成果はまだ得られていない点がやや遅れていると評価する理由である。しかしながら、液体ヘリウム温度の実験から、マグノンバンド内での緩和機構に関しては、波数依存性の特徴を明らかにするなどの成果が得られており、今後の開発につながる成果も得られている.
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今後の研究の推進方策 |
極低温では、マグノンが不安定増大する閾値電力が小さくなるため、同じ励起電力でも閾値上の広いパラメータ領域での実験が可能となる。これに加えて、最終年度は新しくマイクロ波電力増幅器を追加することで、バルク球形試料でのボーズ凝縮および放射マイクロ波の測定を試みる。また、薄膜試料の外部磁場方向依存性を併せて研究する。今までにボーズ凝縮が報告されているのは,膜面内に磁場を加えた場合であるが、新しい大電力励起システムにより膜面垂直方向での測定を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は,放射マイクロ波の発生パラメータを試料や温度変化を通して研究する予定であった。しかし、放射電力が弱く、ボーズ凝縮の発生を確認できる状態ではなかったため、検出アンテナの改良などを中心に研究を進めたために、試料その他の購入物品が当初の計画より減少した。このため、本年度使用額を減らして次年度の消耗品購入に計画を変更したため。 現有のマイクロ波電力増幅器を新しく組み合わせた測定システムを構築するために、マイクロ波立体回路および検出などの関連部品を購入予定である.この改良したシステムにより、球状試料でのボーズ凝縮およびマイクロ波放射の実験を進める。
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