研究課題/領域番号 |
24656240
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 博資 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (30136212)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 情報源符号化 / データ圧縮 / 準瞬時符号 / ハフマン符号 / 固定長-可変長符号 |
研究概要 |
データ圧縮(情報源符号化) 用の符号として最もよく知られているハフマン符号は,一意復号可能な全ての符号の中で最も圧縮率がよいと考えられている.しかし,本研究では,ハフマン符号を越える圧縮性能を持つ符号が存在しえることを明らかにすると共に,ハフマン符号より圧縮性能のよい符号を,準瞬時符号として構成する方法を検討することを研究目的としている.この研究目的にしたがって,平成24年度は,次の事柄を明らかにした. (1) 固定した符号語(つまり固定した符号木)を用いる場合は,ハフマン符号が一意復号可能な符号の中で最適である(最もよい圧縮率を達成する)が,定常無記憶情報源の場合であっても,符号語を可変にする(つまり複数の符号木を使用する)と共に,非瞬時符号化する(つまり,符号木の内部節点にも符号語を割り振る)ことにより,ハフマン符号より圧縮性能のよい符号が構成可能となる. (2) 一般に非瞬時符号を用いると,復号の複雑度が非常に増加し実用的でなくなるが,符号語の1シンボルを先読みするだけで復号できる準瞬時符号を考えると,復号の複雑度を増加させることなく,ハフマン符号より圧縮性能のよい符号を構成できる. (3) K≧3に対して,性能のよい3元準瞬時符号の構成法を与え,それらがK元ハフマン符号の性能を越える性能を持つ. (4) 上記(3)の手法では,2元ハフマン符号の性能を越えることができないが,K=2の場合に対して2ビット先読みすることで復号可能な準瞬時符号の構成法を与えた.その結果,情報源の確率分布によっては,その符号は2元ハフマン符号よりよい圧縮性能を持つ. 上記の研究成果により,1952年に提案されたハフマン符号の性能を,60年ぶりに更新した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の当初の研究計画は下記の通りであるが,「研究実績の概要」欄で述べたように,これらの目的をほぼ全て達成することができた. (a) 情報源アルファベットの要素数が非常に小さい場合に対して準瞬時FV符号を構成し,ハフマン符号に比べて圧縮率がよくなることを確認すると共に,どのような準瞬時FV 符号がハフマン符号より性能がよくなるかに関して検討を行なう. (b)一般の情報源アルファベットに対して,準瞬時FV 符号が最適となるために必要な複数の符号木が満たすべき条件を求める.さらに,その条件に基づき最適な複数の符号木を生成する準瞬時符号構成アルゴリズムを開発する. (c)上記(b)で開発した最適な複数の符号木で構成される準瞬時FV 符号の性能を理論的に検討する. (d)最適な複数の符号木を生成するプログラムを作成し,さまざまな情報源出力分布に対する準瞬時FV符号の圧縮性能をシミュレーションにより確認すると共に,ハフマン符号との性能比較を行ない,考案した準瞬時符号の性能が優れていることを明らかにする.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に得られた成果を,情報理論の国際シンポジウムで発表するとともに国内外の研究者とその成果について議論を行う. 平成24年度に示した準瞬時符号の構成法は,貪欲アルゴリズムに基づいているため,最適な準瞬時符号が構成できている保証がない.そこで,平成25年度は,最適な準瞬時符号が満たすべき性質を理論的に導出し,その性質に基づいた性能のよい準瞬時符号の構成法を検討する.まず,K≧3の場合に対するK元準瞬時符号の構成法を検討し,続いてK=2の場合の2元準瞬時符号の構成法を検討する.さらに,最適な準瞬時符号で達成可能な符号化レート(圧縮率)の限界を理論的に導出することを試みる. 平成25年度に得られる新たな成果を,国内外のシンポジウムやワークショップで発表すると共に,研究成果を論文としてまとめ,学術論文誌に投稿する.
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は主に理論研究とシミュレーションからなる.理論成果に関して誤りがないことを確証するためには,本研究グループ内で議論するだけでなく,得られた成果に関して他の研究者と議論することが重要である.そのために,平成24年度に得られた成果および平成25年度に新たに得られる成果を,国内および国際シンポジウムやワークショップなどで発表すると共に,他の研究者を招いて研究討論を行なう.旅費と謝金は主にそのために使用する.また,シミュレーションには,高速で大容量メモリのコンピュータが必要となる.そのために,設備費で最新のパソコンを購入する.また,そのプログラム作成や数値実験のために,謝金を使用する.さらに,最終的に成果を論文として投稿する投稿料などにも使用する予定である.
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