実際に高感度歪センサ素子を試作するにあたって、まず成膜用基板が薄膜素子に与える影響について検討を行った。前年度まではスライドガラス(熱膨張係数:10 ppm/K)のみの基板で非磁性Mo導体層との2層間の影響を検討したが、熱膨張係数が約1/20となる石英ガラス基板(0.5 ppm/K)を用いて同様にFeSiB薄膜の磁気異方性への影響について検討を行った。薄膜素子の形状は前年度と同様に、下部層のMo薄膜の形状を短冊状(膜厚:3μm,幅2mm×Lmm,L:変数)とし、その上に成膜するFeSiB薄膜は面内における形状の影響を無くすために円盤状(膜厚:1μm,直径2mm)に固定した。その結果、スライドガラスを基板に用いた場合に対して、石英基板上でのFeSiB薄膜の磁気異方性は90°回転した方向(短冊Mo下部層の長手方向)に誘導されることが明らかとなった。またスライドガラスの場合と同様に、Mo層のアスペクト比や膜厚によって誘導される異方性に強弱が現れることも明らかとなった。これらの結果より、実際の素子成膜の際には、基板の熱膨張の影響も大きく寄与することから、成膜用基板を含めたセンサ素子作製に関わる材料間の熱膨張係数を厳密に見積もる必要があるが、これは今後の検討課題である。 以上の結果を踏まえて、厚さ150μmの薄いガラス基板上に製膜することを想定して、簡易的に素子設計の見積を行い1ターンのミアンダ形状のセンサ素子を製作し評価を行ったところ、キャリア通電の周波数60MHz付近において約140%という大きな歪-インピーダンス特性が得られた。
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