研究課題
昨年度の研究の不足分を補うため引き続き実験を行った.その結果,セメントの一部を焼成ホッキ貝殻粉末で置換したモルタル供試体の熱重量・示差熱分析(TG-DTA)の定量分析では焼成貝殻粉末の置換量が10%以上になるとホッキ貝殻,ホタテ貝殻,市販の膨張材とも同程度の水酸化カルシウムが生成されているが,ホッキ貝殻を10%混入したモルタルに関しては,粉末X線回折の18°のピークが大きくなり,水酸化カルシウムの結晶に配向性があることが分かった.走査型電子顕微鏡(SEM)によるモルタル供試体の破断面の観察結果では,焼成したホッキ貝殻,ホタテ貝殻粉末を混入したモルタルから数μm~10μmの針状結晶が確認され,それぞれの断面を比較すると,長さや結晶の形状が酷似していることがわかった.しかし,この針状結晶のサイズは焼成ホッキ,ホタテ貝殻粉末の方がわずかながら大きく,膨張材の方は少し小さいサイズの針状結晶がみられた.この針状の結晶は一般的にはエトリンガイトと呼ばれ,膨張の原因となっている.そこで,粉末X線回折の回折結果から,市販の石灰系膨張材には,従来膨張する原因となるエトリンガイトのピークが見られるが,焼成貝殻粉末にはピークが見られないことが分かった.つまり,エトリンガイトが含まれないが,水酸化カルシウムで大きな膨張を示していることが考えられる.練混ぜてからの膨張に関しては,材齢1 日経過するまでの膨張量は焼成ホッキ貝殻混入モルタルが最も大きかったが,1 日経過以降ほとんど長さ変化を示さなかった.焼成ホタテ貝殻および膨張材を混入したモルタルの膨張量は,焼成ホッキ貝殻混入モルタルよりも小さいが,1日経過以降も徐々にではあるが継続的な膨張が確認された.
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コンクリート工学年次論文集
巻: Vol.35,No1 ページ: 1567-1572