研究課題/領域番号 |
24656293
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 愼司 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90170753)
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研究分担者 |
武若 聡 筑波大学, システム情報工学研究科(系), 教授 (80202167)
田島 芳満 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20420242)
劉 海江 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10600679)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 河口環境 / 環境の監視 / 高潮 / 洪水 |
研究概要 |
本研究では、河口域において、可視画像とXバンドレーダー画像に基づき地形変化や流体運動の物理環境を監視するシステムを開発する。そして、イベント発生時にはさらに機動的なモニタリングを実現する。 平成24年度は、潮位差の大きい太平洋側の河川として天竜川・馬込川、潮位差の小さい日本海側の河川として手取川・九頭竜川を対象に選定し、河口域環境の観測手法を検討した。天竜川においては、従来研究で設置した可視画像カメラとXバンドレーダーを継続的に運用し、環境監視体制を整えた。天竜川においては、平成24年度は大きなイベントは発生しなかったが、2012年8月頃より左右岸の河口砂州が延伸し,河口は閉塞的な状況(河口幅約80m)が現時点まで続いている.複数回の出水があったが,いずれも地形変化は僅かであった. 馬込川河口部においては、2009年台風18号来襲時に取得された画像の解析と数値計算を組み合わせて、非定常性の大きい高潮イベントの発達機構を解明した。その結果、領域内において推定された流速変動は1分程度の周期で大きく変動しており、連続画像から確認される長周期変動による複雑な流動構造を捉えることに成功した。このような脈動流れは、複雑な河道線形のもとで、水位上昇の局所集中を引き起こすため、河道線形が屈曲している中小河川では特に、非定常性を考慮した高潮遡上の検討が重要であることが確認された。 九頭竜川・加越海岸流砂系では、波・流れの数値計算と表層底質に注目した現地調査を実施した。現地調査では、流砂系の広範囲の約50 地点から表層砂を採取し、色度、粒度、熱ルミネッセンス(TL)強度を分析した。その結果、漂砂源としては、九頭竜・手取両河川に加えて、古砂丘が重要であることがわかり、それぞれの影響範囲を推定することができ、潮位差の小さい日本海側の河口におけるイベント監視に有用な情報を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、潮位差の大きい太平洋側の河川として天竜川・馬込川、潮位差の小さい日本海側の河川として手取川・九頭竜川を対象に選定し、河口域環境の観測手法を検討した。天竜川においては、従来研究で設置した可視画像カメラとXバンドレーダーを継続的に運用し、環境監視体制を整えた。平成24年度は大きなイベントは発生しなかったが、2012年8月頃より左右岸の河口砂州が延伸し,河口は閉塞的な状況(河口幅約80m)が現時点まで続いている.複数回の出水があったが,いずれも地形変化は僅かであった. 過去の高潮イベント発生時の画像解析を進めた結果、河口部における高潮遡上は、1分程度の長周期変動を伴いながら、段波状の遡上波が発生する非定常性の強い現象であることが分かった。これにより、高潮発生時には流れが脈動し、河川堤防上での局所的な越波が生じる要因となっている。また、段階的な水位上昇を境界条件とした高潮数値モデルにより、脈動しながら遡上する河口部における高潮遡上流れを再現することができることが分かった。これにより、イベント発生時の特徴的な流動現象を捉えることができ、これを基本データの一つとして、次年度以降のイベント監視システムの開発に臨む足がかりを構築することができた。九頭竜川・加越海岸流砂系においては、数値計算や表層砂分析などにより、海岸形成過程、漂砂源とその影響範囲、土砂移動の卓越方向など、広域的な土砂移動の実態を明らかにした。これにより、潮位差の小さい日本海側の河口部の特徴を抽出することができた。 以上のように、潮位差の大小が異なる特徴的な河口部において、イベント発生時を含む可視画像の基本的なデータを蓄積することができた。これらは、当初計画に記載された平成24年度の計画をほぼすべてカバーするものであり、研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、前年度までに得られた画像をベースとした河口監視システムの情報を踏まえて、イベント監視技術の開発を行う。河口域環境の特徴は、突発的な環境変化が洪水や台風来襲などのイベントによって数時間で生起することである。例えば、昨年度調査を実施した天竜川河口域では、2007年7月の台風来襲により2~3時間で地形が大きく変化し、その後約1ヶ月にわたって河口環境が激変したことが観察されている。これらの環境変化は事前には時間・空間ともに予測が困難であるため、取得画像情報をリアルタイムで処理しながら、イベント前後では撮影領域や画像取得頻度を機動的に変化させることが重要となる。そこで、定点カメラ・レーダーによる画像のステレオ分析や前年度に開発したPIV分析などから洪水時の水位と流量を推定し、イベントの発生とエネルギーレベルをリアルタイムに検出し、画像の取得頻度の変更や撮影範囲の変更などの動的な制御を実現する.最適な制御を実現するための閾値は、実際のイベント、仮想的なイベントを通じて最適化する。さらに、最終年度に予定している機動的モニタリングシステムについても、仮想イベントを想定した運用を試みる。運用箇所としては、昨年度の調査実績のある天竜川・馬込川河口の他、情報を蓄積した手取川、九頭竜川などを検討する。実運用では、システムの堅牢性や固定・可搬両システムの統合分析も重要な評価項目となるので、仮想的なイベント発生も想定して、安定したモニタリングシステムを実現する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の進展は順調であり、研究費の使用計画は当初の計画と基本的には変更ない。可視画像カメラ映像のデータに関しては、取得画像はネットワークを介して遠隔操作し、ハードディスクに保存した上で画像分析に供するので、保存・分析用にハードディスクが計上されている。Xバンドレーダーについては、画像処理システム部分は既有の固定式のシステムを援用するので本体部分のみが計上されている。研究補助員謝金は、画像の標定と分析作業補助、地形測量補助、および、動的システムに向けたプログラム作成に係るものである。さらに、現地調査に係る旅費、オレゴン州立大学を中心に開発されている既存ARGUSシステムに関する情報収集のための旅費、取得画像標定のための空中写真撮影費用が主たる経費として計上されている。 以上の研究経費はすべて当初計画に計上されていたものであり、今後の研究遂行に必要不可欠なものである。
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